次期社長と訳あり偽装恋愛

「梨音、その槙田くんのことだけど会ってみないか?」

ずっと黙っていた朔ちゃんが口を開く。
突然のことに驚いて声が裏返った。

「えっ?」

「槙田くんと響也が梨音のことを聞いてきたって前に話しただろ」

そういえば言っていたような気がする。

「槙田くんはどうしても梨音に謝りたいと言っていたんだ。それに梨音と槙田くんが気まずいままだと、舞ちゃんだって気にしてしまうだろ」

一方的に謝って逃げたので後味が悪いし、昴くんに会わせる顔がないと思っていた。
だけど、朔ちゃんの言う通り、このまま昴くんに会わないと舞だって心の中でモヤモヤする可能性がある。
これはいい機会かもしれない。

「分かった。昴くんに会うよ」

「そうか。じゃ、連絡するな」

「は?連絡ってそんなすぐに予定なんて空いてないでしょ」

「それが空いてるんだよ。槙田くん、舞ちゃんのことが心配で近くの店で時間をつぶしてるから」

唖然として隣に座っている舞を見る。

「ごめんね。実は前に槙田さんにこのバーに連れてきてもらったことがあって、その時に槙田さんが梨音のことを聞いてたから……」

舞は申し訳なさそうに眉を下げる。

「で、俺も何か手助けできないかなと思ってね」

朔ちゃんはスマホ片手にウィンクする。

「あー、そういうことね」

朔ちゃんの用意周到ぶりにはお手上げだ。
流石としか言いようがない。
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