次期社長と訳あり偽装恋愛
「昴くん、謝らないでよ。あの時は確かにショックだったし落ち込んだよ。お兄ちゃんなんて鬼畜過ぎてムカついてたけどね。でも五年も前のことだし、もう大丈夫だから」
明るく笑いながら言えば、昴くんは小さく息をはいた。
私もフラれたのがトラウマだったように、昴くんも後味の悪い振り方をしてしまったと思っていたんだろうな。
こうしてまた昴くんと話すことが出来たのは舞のお陰だ。
私と昴くんのわだかまりを解くきっかけになってくれたんだもん。
「ほら、舞もそんな顔しないでよ。せっかくの美人が台無しでしょ。いつまでもしょげてたら舞の学生時代の武勇伝、昴くんに話すよ」
「え、それだけは止めて」
すかさず阻止した舞の顔が真顔過ぎて笑ってしまう。
それとは反対に身を乗り出すように興味津々で聞いてくる。
「何、武勇伝て」
「それはね……」
「梨音!」
「はいはい、分かってるって。舞はこう見えて男前なところもあるって話だよ」
学生時代、痴漢を撃退したことがあるというだけ。
別に話してもいいのに、舞にとったら恥ずかしいのかもしれない。
「どういうことだ?」
「ふふ、私だけが知っている舞の秘密だよ。これは昴くんでも教えれないなぁ」
「何だよ、それ」
不服そうに眉根を寄せる昴くんを見て、私はまた笑った。