次期社長と訳あり偽装恋愛
「どうかした?」
驚きのあまり、何も言えなくなってしまっている私を見て立花さんは心配そうに聞いてくる。
「いえ、あの、マキって昴くんのことだったんですね。私はてっきり……」
そこまで言って、慌てて口を手で押えた。
危ない、余計なことまで言ってしまうところだった。
「てっきり、何?」
セーフだと思っていたけど、立花さんは見逃してくれなかった。
追及され、私はどうしていいか戸惑う。
実は、マキって人は立花さんの気になっている人だと思っていた。
それで私は偽装恋愛解消を切り出した……なんて言える訳がない。
「もしかして、マキのことを何か勘違いしてたんじゃない?」
図星をつかれて赤面し、不自然に目を逸らしてしまった。
「やっぱり。あの居酒屋での出来事があった時、俺に電話がかかってきてから河野さんの様子がおかしくなった。話の内容は他愛もないことだったと思う。だけど、君は明らかに顔色が悪くなり逃げるようにその場を後にした」
あの日のことを語られ、私は何も言い返すことが出来ない。
「俺はその時の会話を思い出すと、唯一思い当たるのは“マキ”という名前を出したことだけだ。そして、河野さんはいきなり偽装恋愛をやめようと言い出した。俺の中である一つの仮説が生まれた」
そう言って小さく息を吐いた。