次期社長と訳あり偽装恋愛
私は恥ずかしくて、出来ることなら逃げ出したいぐらいだ。
ていうか、それは悩むでしょ。
男の人に仕事以外で電話したことなんてないんだから。
「で、もう仕事終わった?」
「あ、はい」
立花課長は綺麗に片付けられている私の机に視線を向ける。
今、幸いにも企画部のフロアには誰もいない。
部長たちの打ち合わせが長引いているからだ。
私はいつでも帰れる準備は出来ていた。
「それじゃ、問題ないね。行こう」
そう言って背中を向け、後を追うように企画部のフロアを出た。
私はその足で更衣室に行き、私服に着替える。
今日の服装はミントグリーンのフリルブラウスに黒のワイドパンツ。
メイクを軽く直し、鏡を見ておかしいところがないか確認する。
それにしても、今日はジーパンとかじゃなくてよかった。
更衣室を出てエレベーターホールに向かう。
立花課長の車に乗って食事に行くんだけど、流石に社内で並んで歩く勇気はない。
だって、仕事終わりに立花課長と一緒にいるところを誰かに見られたら何か言われそうだ。
それを何となく伝えたら、立花課長は察してくれて「地下の駐車場にいるから、着替えが済んだら降りてきて」と言ってくれた。
立花課長と食事か……。
改めて考えたらすごいことだよね。
エレベーターに乗り、緊張した面持ちで地下へ降りた。