次期社長と訳あり偽装恋愛

今、目の前で綺麗に弧を描いているあの唇が私の唇に……と考えただけで恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。

「キス、嫌じゃなかった?」

うぅ、そんな聞き方はズルイ。
驚いただけで、嫌とかそんな感情は全くなかった。
小さく頷くと、立花さんの大きな手が私の頬に触れた。
その手が後頭部へと回り、再び顔が近づいてきて唇が重なった。
私は目を閉じてキスを受け止めた。
さっきの触れるだけのキスとは違い、深く激しいものだった。
薄く開いた唇から熱い舌が入り込み、驚いて引っ込めた私の舌を絡めとられる。

「……んっ、」

鼻にかかった甘ったるい声が漏れる。
口内を貪るように動く舌に背筋がゾクリと粟立つ。
何度も角度を変えて与えられる濃厚なキスに頭がぼんやりして何も考えられなくなる。

ようやく唇が離れると、立花さんは熱のこもった瞳で見つめ、濡れていた私の唇を拭うように指でなぞる。

「そんな顔しないで。止まらなくなる」

真っ赤に染まった私の顔を見た立花さんは苦笑いを浮かべる。

「止まらなくなるって……」

「抱きたいってこと。でも、河野さんのことは好きだからこそ大切にしたいんだ」

愛おしげに見つめられ、胸がキュンとなる。

「今日から偽装じゃなく本当の恋愛をしよう」

私はその言葉に幸せをかみしめるように、しっかりと頷いた。
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