次期社長と訳あり偽装恋愛
「何だか今日は雰囲気が違うね」
私の顔をまじまじと見る。
そんなに見られると照れくさい。
「そ、そうですか?多分、口紅の色がいつもと違うからだと思いますけど……」
今日は前に立花さんからもらった口紅を塗っている。
なかなか使うチャンスがなくて、今朝ようやく箱を開封した。
確かに鏡で見た自分の顔は、いつもと雰囲気が違い、少し大人びたような気がした。
私はバッグの中の化粧ポーチから口紅を取り出した。
「立花さんからもらった口紅を使ったので」
「あぁ、それ使ってくれてるんだ」
「私にはちょっと大人っぽいかなと思ったんですけど」
「そんなことないよ。よく似合ってる」
「ありがとうございます」
似合ってると言われ、何だかくすぐったい。
駐車場に着くと、止めてあった車に乗り込んだ。
「どこに行きたい?」
いきなり話を振られ答えに詰まる。
今日は立花さんとデートの約束をしていた。
本当の彼氏彼女になって初めてのデートだ。
前に一度、花火大会に行ったことがあるけど、あれは偽装だったし。
どこに行きたいかなんて聞かれても、デートに関しての引き出しが少ないので思い付かない。
「あの、立花さんはどちらに行きたいですか?」
「俺?梨音ちゃんの行きたいところでいいよ」
笑顔でそんなことを言われ、更に困る。