次期社長と訳あり偽装恋愛
「言葉の通りだよ。料理が上手で心優しくて可愛くて、ホントなら誰の目にも触れさせたくないぐらいなんだから」
「お前……本当にあの翔真か?」
驚愕の表情で立花さんを見ている。
私はと言うと、自分のことを言われてると思っただけで顔から火が出そうだ。
早く準備を終わらせて、この会議室から出たくて仕方ない。
そんな私の心情はお構いなしに二人の会話は続く。
「何が言いたいんだ?」
「今まで、誰にも関心がなかったお前がそんなことを言うなんて信じられなくてマジで驚いているんだ。そこまで翔真を本気にさせる子に本当に会ってみたいよ」
聞こえない振りをして手を動かした。
「準備が出来たので私は失礼します」
「ありがとう。助かったよ」
高柳課長は自分が座る席に置いてあった資料を手に取るとパラパラと捲り目を通す。
私はお辞儀し、会議室を出ようとしたら再び立花さんと目が合った。
『弁当、美味しかった』と口パクで言われ、カァと顔が赤くなる。
反射的に高柳課長を見ると、まだ資料に視線を落としていた。
胸を撫で下ろし、会議室のドアを開けた。
背後で立花さんがフッと笑う気配がし、小さな声で呟いた。
「ホント可愛い」
「ん?何か言ったか?」
高柳課長が聞いてきて、立花さんは「いや」と首を左右に振っていた。