次期社長と訳あり偽装恋愛

「おや、梨音ちゃんじゃないか。どうしたんだ、そんなに泣いて。何か辛いことがあったのかい?」

「あ、目にゴミが入っただけです」

涙を拭いながらとっさに誤魔化した。
どう見ても嘘なのはバレバレだけど、しげさんは追及することなくその場にしゃがみ込んで私の頭を撫でてくれた。

「こんな老いぼれじいさんのわしに優しくしてくれる梨音ちゃんを泣かす不届きな奴がいるなんて許せんな。わしが成敗してやろうか」

茶目っ気たっぷりに言うしげさんの優しさに笑みがこぼれた。

「ふふ、誰にも泣かされてないので大丈夫ですよ」

「そうかい?それならいいけど。やっぱり梨音ちゃんは笑顔じゃないとな。嫌なことがあったり困ったことがあったら何でも言ってくれ。わしは梨音ちゃんの味方だから」

「ありがとうございます。しげさんが味方だなんて心強いなぁ」

「そうじゃろう。梨音ちゃんは孫みたいなもんだからな。さて、わしは花壇の草むしりでもして来ようかな」

よっこらしょ、としげさんは立ち上がると腰をポンポンと叩く。
私もスカートの汚れを払いながら立ち上がる。

一人であのまま泣き続けていたら浮上出来なかったかもしれない。
しげさんがそばにいてくれただけで心が落ち着き、その優しさに救われた。

「しげさん、ありがとうございました」

私がお礼を言うと、しげさんは笑顔で「じゃあ」と手を上げ背を向けた。

私もどうにか気持ちを切り替えて企画部のフロアに戻った。
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