次期社長と訳あり偽装恋愛
「どうしてそれを?」
「……社長から聞きました」
「社長って親父から?」
私が黙って頷くと、立花さんは顔を歪める。
「親父から他に何か言われた?」
私はそれには答えることなく視線を逸らした。
「親父が何を言ったのか分からないけど、梨音ちゃんが心配することはない」
安心させるように言ってくれたけど、立花さんの縁談の話を聞かされて、このまま何も知らない振りをして付き合い続けることはできない。
「立花さんに縁談の話があることを聞きました」
「……っ、それは親父が勝手に決めたことで俺は納得していない」
「でも、その話はあるんですよね?」
立花さんは押し黙る。
それは肯定してることと同じだ。
きっと、立花さんは優しいから私のことを考えて今まで言い出せなかったんだと思う。
私が身を引けば全て丸く収まる。
言うんだ、梨音と叱咤する。
「立花さん、今までありがとうございました。今日で私たち……終わりにしましょう」
立花さんが驚いたように目を見開き、息をのむ。
自分で言っておいてズキズキと胸が痛む。
「梨音ちゃん、何言ってるんだ。本気なのか?」
立花さんが私の両肩を掴む。
「……はい」
俯いて唇を噛みしめる。
立花さんの顔をまともに見ることができない。
今にも涙が出そうになり、顔を見たら気持ちが揺らいでしまう。