次期社長と訳あり偽装恋愛

翔真side


「珍しいな、こんなところで飲むなんて。何かあったのか?」

「親父が裏で手を回しやがった」

苛立ちを隠すことなく、チッと舌打ちしてマティーニに口をつける。

「どういうことだ?」

怪訝そうに聞いてきたのは、友人のマキこと槙田昴。
マキは化粧品メーカー『リュシュレ』の御曹司。
最近、彼女が出来て惚気話ばかり聞かされている。
マキの彼女は梨音ちゃんの友達で、こんな偶然があるんだなと驚いたところだ。

「俺に縁談の話があることを梨音ちゃんに言ったらしい」

「は?」

「それで梨音ちゃんから別れを切り出された」

その時のことを思い出し、大きくため息をつく。
俺的には別れを了承した訳じゃないけど。

「なるほど。それで響也も行く可能性のあるいつものバーではなく、ここで飲んでたんだな」

納得するようにマキに言われ肩を竦めた。

マキと河野響也は高校の時からの友人だ。

響也はおじいさんが建築会社の社長だったが、親父さんは跡を継がずに別の会社に就職した。
響也自身は建築に興味があったので、おじいさんの会社に就職し、後々は跡を継ぎたいと話をしている。

同じような境遇の俺たち三人はすぐに意気投合し、今も定期的に会っている。

今日はいつも行くバー『ダークムーン』ではなく、『ベリルスター』というホテルにあるスカイラウンジに来ていた。
< 188 / 212 >

この作品をシェア

pagetop