次期社長と訳あり偽装恋愛
一人飲んでいたらマキから連絡があり「どこにいるんだ?」と聞いてくるので、『ベリルスター』の『ミルジュ』にいると伝えた。
しばらくしてマキが突然現れ、しれっと隣に座りワインを注文していた。
『ダークムーン』は梨音ちゃんのいとこ、朔斗さんのバーだ。
梨音ちゃんに別れを切り出された今の状態でそこに行くのは気が引けるし、響也にも会わせる顔がない。
マキは俺の言葉を聞いて瞬時に察したんだろう。
「親父さん、翔真たちのことを調べたんだな」
「ああ。付き合っている人がいるから縁談を破棄して欲しいと頼みに行ったことがあったんだ。相手が誰とは言わなかったけど、親父にとってはその人は邪魔でしかないから秘書にでも探らせたんだろう」
冷徹眼鏡の秘書、亀井祐介を思い浮かべる。
「でも、お前は別れるつもりはないんだろ」
「当たり前だ。どうせ親父が卑怯な手を使って梨音ちゃんに詰め寄ったんだろう。それじゃなきゃ、梨音ちゃんがあんな泣きそうな顔で俺に別れを告げたりしないだろ」
今、思い出しても胸が痛む。
梨音ちゃんにはいつも笑っていて欲しいのに。
あの日、梨音ちゃんと連絡が取れないことに不安を覚えた俺は、仕事終わりに部屋に寄ってみた。
玄関のドアが開き、梨音ちゃんの顔を見た瞬間、目が腫れていたのに気づいた。
何かあったんだというのは感じていたが、まさか親父に会っていたなんて想像もしていなかった。
挙げ句、あんなことを言われるとは……。