次期社長と訳あり偽装恋愛
その時の気持ちを思い出したら無性に恋がしてみたくなった。
そんな風に思えるようになったのは私にとって大進歩だ。
「でも、トキめくとか恋ってどうするんだっけ?って感じだし、今は出会いもないので当分は無理っぽいですけど」
「そっか……。河野さんがそんな風に思えるようになれてよかった」
立花さんが何か言いたげな表情をしていたのが気になったけど、私はお手洗いに行くために席を立った。
お会計は私が席を立っている時にしてくれていたみたいで、そのスマートさに驚く。
人に奢ってもらったことがないので申し訳ない気がして「自分の食べた分は払います」と言ったけど、「ごちそうするって言う約束だろ」と一蹴された。
食事が終わり、立花さんが車で送ってくれることになった。
断ったんだけど、「こんな時間に女の子を一人で帰す訳にはいかない」と強引に押しきられた。
こんな時間といっても、まだ九時過ぎでそんなに遅い時間じゃないんだけど。
しかも「心配だから自宅まで送り届ける」と。
立花さんの運転する車の助手席に座り、窓の外を眺める。
会社からベリルスターに来るまでの車内はガチガチに緊張していた。
息をするのも気を遣うぐらいに。
今は食事をしながらお互いの事を話したからか、最初に比べると緊張は和らいでいる。
見慣れた景色が視界に入り、立花さんに声をかけた。