次期社長と訳あり偽装恋愛
エレベーターで玲奈と別れ、企画部のフロアへ戻る途中、休憩スペースに寄った。
そこには自動販売機やテーブルや椅子などが設置されていて、観葉植物も置いてある。
ちょうど観葉植物の手入れをしている作業服を着ている清掃員のおじいさんがいた。
年齢的には七十代ぐらい。
その辺のおじいさんよりは若い感じで、物腰も柔らかく話しやすい人だ。
「お疲れさまです」
声をかけると、おじいさんが作業していた手を止め笑いかけてくれた。
「お疲れさん」
「しげさん、いつも綺麗なお花をありがとうございます」
敷地内の花壇などは清掃員のおじいさんが世話をしている姿を何度も目にしていた。
会社と倉庫を行ったり来たりしていると自然と花壇が視界入る。
色とりどりの花は私の心を癒やしてくれていた。
だから、会った時にお礼を言いたくなるんだ。
「いや、花の手入れはわしの趣味みたいなもんだからな。でも、いつも礼を言ってくれるのは梨音ちゃんぐらいだよ」
しげさんは嬉しそうに目を細めて言う。
初めて会った時、自分の名前を名乗ってから、私のことは“梨音ちゃん”と呼んでくれるようになった。
おじいさんの名前を聞くと「みんなからは、しげさんと呼ばれているから梨音ちゃんもそう呼んでくれ」と。
それからは“しげさん”、“梨音ちゃん”の仲だ。