次期社長と訳あり偽装恋愛
止めてー!という私の心の声は届くはずもなく。
「どれ……」
高柳課長は私の落書きを見ている。
そして、周りの人たちにも見せている。
穴があったら入りたいよ。
ホント余計なことして!!!
隣りの宮沢を睨みつけると、ニヤリと口角を上げて笑っている。
ムカつく。
バチバチと火花を散らすように睨み合っていると、高柳課長が口を開く。
「河野さん、これは犬?だよな」
「……はい。一応、チワワをモチーフに描いたんですけど」
尻すぼみで小さくなる声。
ホントに落書きもいいところ。
こんなのを高柳課長に見られるとか最悪。
「いいじゃないか。これでいこう」
「えっ?」
何を思ったのか、高柳課長は決定だとばかりに私の描いた犬の絵に赤丸で囲った。
「野中、この犬をもうちょっと可愛く描いて、もふりんの友達として並べてもおかしくないようにしてみてくれ」
野中さんというのはやり手の男性デザイナーで、いくつものヒット商品を手掛けている。
確か二十九歳で、茶色がかった柔らかそうな髪の毛。
スーツを着ている企画部や営業とは違い、いつもラフな服装をしている。
「分かりました。次の打ち合わせまでに考えておきます」
まさかの一言に言葉を失った。
私の描いた、ある意味“画伯”並みの犬の落書きの絵が野中さん手により可愛い犬に変身することになった。