次期社長と訳あり偽装恋愛
「いや、好きな人は出来てないんだけど……」
「出来てないけど、どうしたのよ?」
「偽装彼氏の提案をされてて」
音波ちゃんなら話してもいいかと思い、打ち明けた。
「はぁ?偽装彼氏?」
音波ちゃんが素っ頓狂な声を出す。
そりゃそうだよね。
その反応が正しいと思う。
私は音波ちゃんに事の成り行きを全て話した。
本当に偽装彼氏とかいいんだろうかという不安も含めて全部。
だけど、立花さんが会社の御曹司であることは黙っておいた。
身分不相応なのは理解しているし、大ぴらにはしたくないと思ったんだ。
「なるほどね、会社の人がそんなことをね」
枝豆を摘みながら音波ちゃんが呟く。
「でも、梨音にはいい機会じゃない。恋がしたいって言ってそう簡単にいい人なんて現れないと思うし、男の人に慣れておくのもいいかもね。ナンパとかで変な男に引っかかるより、会社の人なら多少は安心だし」
「そうかな」
「そうだよ!梨音は男の人と付き合ったことがない上に、あの失恋のダメージが大き過ぎてる感じがする。一番楽しい時期に一人身で勿体ないことをしているなって思ってたんだよ。気がつけば二十五、あっという間に三十路になるんだから。私なんてあと三年で三十路だよ」
音波ちゃんはため息をつく。