次期社長と訳あり偽装恋愛
立花翔真。
彼は以前、海外事業部でアメリカ勤務だった。
今年の二月末に日本に戻り、今は営業部に異動になっていて役職は課長だ。
立花課長は社長の息子。
社長の方針で各部署を転々と異動しながら働き、自社の仕事の流れなど把握し、次期社長という立場から勉強しているという話を聞いた。
そんな人と私には接点はないはずだったんだけど……。
「荷物重そうだね。持つよ」
そう言って段ボールに手をかけようとしたけれど、私は全力で断った。
次期社長に荷物を持たせるとか出来る訳ない。
立花課長は偉ぶることなく、こういう然り気ない気遣いが出来る紳士な人だ。
だから、社内での人気も抜群で女子社員の憧れの人でもある。
「いえ、大丈夫です。軽いですから」
私の力強い拒否に驚いた立花課長は肩を竦める。
「そっか。そこまで言われたら止めとくよ。で、三階でいいんだよね?」
「あ、はい」
私の代わりに三階のボタンを押してくれた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
エレベーターの中という狭い空間に男の人と二人きりって緊張する。
全然話もしたことのない人なら、私だって意識はしない。
だけど、何度か話したことのある人っていうのが問題だ。
特に親しい訳じゃないけど、仕事で交流のある人。
会話をしようにも、これといって話題が見つからないし距離感がつかめず、どう接していいのか悩んでしまう。