次期社長と訳あり偽装恋愛
「ところでさ、あの約束覚えてる?」
「え?」
突然、そんなことを言われ固まってしまう。
あの約束ってもしかして……。
「この前のお礼をしたいんだけど、いつなら空いてる?」
やっぱりそうだ。
お礼という立花課長の言葉に二週間前のある出来事を思い出した。
その日は残業していた。
休憩しようと自動販売機で紅茶を買おうと休憩スペースに行くと、女子社員が男性社員に告白している現場に遭遇してしまい、私は動けなくなっていた。
「立花さん、入社した時からいいなと思っていたんです。よかったらお付き合いしてもらえませんか?」
「気持ちは嬉しいけど、好きな人がいるから君とは付き合えない」
「好きな人ってことは彼女ではないんですよね?だったらお試しでもいいから私と付き合ってくれませんか?」
女子社員は社内でも男性に人気のある金城亜由美(きんじょう あゆみ)。
そんな彼女をアッサリ振ったのが立花課長だ。
他の男性社員なら喜んで告白を受け入れていると思う。
そのぐらい美人で女子力も高い。
おまけにプライドも高いという噂を耳にしている。
このまま引き下がるようには見えなくて、私は自分のことではないけどハラハラしていた。
案の定、立花課長が断っているのに、金城さんは粘っている。
「無理だ。君とは付き合えないと言っているだろ」
あまりのしつこさに、立花課長は不機嫌さを露わにしている。