次期社長と訳あり偽装恋愛
遠くから見ている私の方がビクビクしてしまうぐらいなのに、それに気付かない金城さんはかなりのつわものだ。
金城さんも引き際を間違えたら嫌われるだけなのに……。
って、私は何をしているんだろう。
盗み聞きしているみたいで(いや、実際にはしているんだけど)居心地が悪くなりその場を立ち去ろうとした時、こちらに視線を向けた立花課長とバッチリ目が合った。
ヤバい、怒られるかな?
思わず後退りしていた私に、なぜが立花課長は満面の笑みを向けてきた。
えっ、何?
「河野さん、お疲れさま。麻生部長は戻ってきた?」
「へ?」
いきなりうちの部署の部長の名前を言われ面食らう。
そんな私をよそに、立花課長は話を続ける。
「これから企画部へ行こうと思っていたんだ。ちょうどよかった」
そう言って、金城さんの横をすり抜け私の方に歩いてくる。
放置された形になった金城さんが口を開く。
「あの、立花さん待ってください。私の話は、」
「金城さん、だっけ?君の気持ちに答えることは出来ないと何度も言っただろ。いい加減、引くことを覚えた方がいい。俺だって暇じゃないんだ。これ以上、煩わさないでくれ。もう、君と関わることはない」
冷たい声色でバッサリと切り捨てるように言うと、私に向かって「行こうか」と促す。
とっさに、これは話を合わせろってことなんだろうと理解した。