次期社長と訳あり偽装恋愛

花火大会の会場から少し離れた砂場と鉄棒しかない小さな公園を見つけた。
穴場的な場所だったのか、誰もいない。

ビルとビルの隙間から辛うじて花火が見えるぐらいだから、ここで見ようとする人はいないのかもしれない。

ベンチに座り、一息ついた。
立花さんは額に汗を浮かべていて、私はバッグからハンドタオルを差し出した。

「よかったら使ってください」

「ありがとう」

タオルを受け取ると額の汗を拭いながら口を開いた。

「連絡が取れなかったので心配したよ」

「すみません、スマホを家に忘れてきたみたいで」

「そうだったのか。何度連絡しても出ない訳だ。でも、無事に会えてよかった」

夜とはいえ、まだ暑いのに汗をかきながら私を探してくれていたことを知り、申し訳なくなる。

「腹減らない?」

そう言われ、返事をする前に私のお腹がグゥと小さな音を鳴らす。
どうやらその音が聞こえたらしく、私の顔を見てプッと吹き出す。

「だよな。買ったやつ、食べよう」

いただきます、と手を合わせ焼きそばの蓋を開けて食べ始める。

私も恥ずかしさを誤魔化すようにクレープにかぶりついた。
お腹が空いてたこともあり、あっという間に食べ終えた。
美味しかったなと満足していると、立花さんがクスッと笑った。

「クリームついてるよ」

「えっ」

この年で顔にクリームをつけるとか最悪だ。
< 71 / 212 >

この作品をシェア

pagetop