次期社長と訳あり偽装恋愛

手で左頬を拭っていたら「そっちじゃない」と立花さんの手が伸びてきて右側の口の端を拭われた。
立花さんはクリームのついた親指を自分の口許へ運び、そのままペロリと舐めた。

な、何、今の……。
恥ずかしさで顔を赤らめてる私とは対照的に立花さんは平然としている。
いろいろと免疫がないので、ひとつひとつに過剰に反応してしまう。

立花さんも歯に青のりとかつけてくれてたらいいのに!と意味不明の対抗意識を燃やす。

ドーンと花火の大きな音が聞こえ、空を見上げた。

「花火、ここからはよく見えないな」

「そうですね」

二人で顔を見合わせて苦笑いする。

「移動したら見えると思うけど、どうする?」

またあの人混みの中に戻るのも嫌だな。
だったら、この静かな空間でゆっくりした方がいい。
立花さんはどう思ってるんだろう。

「私はどちらでもいいです。立花さんは?」

「んー、俺もどっちでもいいかな。このまま花火の音を聞きながらゆっくりするのもいいかもね。花火はまた見れるし」

よかった、立花さんも私と同じ考えだ。

「そうですね。それにしても暑いですね」

花火大会の会場を歩いていてもらったうちわでパタパタと扇ぐ。

花火も終盤になってきたのか、数ヶ所から連続で一斉に花火が打ち上がっている。
あぁ、もう花火も終わりか……。
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