次期社長と訳あり偽装恋愛
「そういえば、化粧品会社で働いている友達から口紅のサンプルをもらったんだ」
立花さんがバッグから取り出した口紅は『リュシュレ』という化粧品会社のパッケージの物だった。
えっ、ここって舞が働いている会社だ。
立花さんの友達も同じ会社で働いているなんてすごい偶然だ。
「あげる」
「いいんですか?」
『リュシュレ』の化粧品は洗練された大人の女性向けな感じがするので、私にはまだ早い気がして手が出せないブランドだ。
「あぁ、俺が持ってても仕方ないだろ。というか、友達に河野さんの話をしたらくれたんだ」
「えっ、私の話をですか?ちなみに、どんな話をしたのか聞いてもいいですか?」
「うーん、それは内緒で」
悪戯っ子のように笑い、人差し指を口許にもっていく。
すごく気になるけど、内緒と言われたのでこれ以上は聞けない。
「ありがとうございます」
私は口紅を受け取り、バッグの中にしまった。
それより立花さんの誕生日なのに、私の方がプレゼントをもらってしまった。
そうだ、誕生日!
今は何も用意できてないから、お祝いの言葉だけでも伝えよう。
プレゼントはまた後日用意すればいいよね。
「あの、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」
嬉しそうに目を細めて柔らかな笑みを浮かべた立花さんを見た瞬間、胸が高鳴った。
この気持ちは何?
私の中に眠っていた小さな想いが静かに芽吹ぶこうとしていた。