次期社長と訳あり偽装恋愛
メイクをしようとドレッサーの前に座った。
メイクボックスには立花さんからもらった口紅が入っている。
シャイニングローズシンデレラという新色で、発売されたばかりのシンデレラシリーズの口紅だった。
普段、私が手に取るのはピンク系の口紅ばかりでローズ系は買ったことがない。
ローズ系は大人の女性の色という感じがするので、使うのは気後れしてしまう。
私はどちらかといえば童顔だから、舞ぐらい美人系の顔だったら似合いそうだ。
でも、せっかくもらったし使わない方が失礼だよね。
いつこの口紅を使おうかな、なんて考えながら頬にチークをのせた。
メイクを終え、着替えるために立ち上がった。
***
「おはようございます」
「おはよ、って鼻声だね。風邪?」
出社して早々、私のマスク姿を見た桐野さんが心配そうに聞いてくる。
家を出る前、万が一のことを考えてマスクをつけた。
こんな状態で出社して「この人、風邪引いてるのにマスクしてないとか最悪。移さないでよ」なんて思われたら嫌だし。
やっぱりエチケットとしてマスクは必要だ。
「多分、そうなのかなと。でも熱はないんですけどね」
「そうなのね。あまり無理はしないようにね」
「はい、ありがとうございます」
席につくとパソコンを起動させ、昨日の定時以降に届いていたメールチェックを始めた。