次期社長と訳あり偽装恋愛
紅茶、飲みたかったけど今日は諦めよう。
私は仕方なく、立花課長と一緒に休憩スペースを後にした。
「河野さん、ごめんね。巻き込んじゃって」
立花課長はすまなそうに眉を下げる。
「いえ、大丈夫です」
確かに巻き込まれたけど、そのことで私に害が及んだ訳ではない。
何なら、立花課長だって迷惑そうだったし。
「断っているのに全然引いてくれなくて困っていたんだよ。そろそろ我慢の限界がきていたから、君が居合わせてくれて助かったよ」
穏やかな笑みを浮かべ、さっきの冷たさとは打って変わって柔らかな声色だ。
そして何を思ったのか、いい案が思い浮かんだとばかりにポンと手を叩いた。
「そうだ、このお礼に何かごちそうするよ」
「え、私はあの場にいただけで何もしていません。だから、お礼をしていただかなくても大丈夫です」
焦りながら断わった。
ただ突っ立っていただけで、お礼をしてもらうほどのことなんてしていない。
でも、立花課長は引く様子は全くなくて。
「いや、俺は君のお陰で助かったんだからお礼をさせて」
何度か押し問答になり、結局私が折れる形になったんだ。
流れでそんな話になっただけで、きっと口約束だけで終わるだろうと気にも留めてなかった。
それに二週間も音沙汰がなかったし、私もすっかり忘れていた。
だから、立花課長があの約束を覚えているなんて予想外だ。