次期社長と訳あり偽装恋愛
立花さんが持ってきてくれたお盆には、お粥の入ったお椀、小皿の上に二粒の梅干しがあった。
「お粥、作ってくれたんですか?」
「あぁ。普段料理をしないし、お粥の作り方もよく分からなくてネットを見ながら作ったから自信はあまりないけど。米なんて久々に炊いたよ」
頬をポリポリとかく。
もしかして、あのタッパーにはご飯が入っていたのかな。
「ありがとうございます」
料理をしない立花さんが私のためにお米を炊き、お粥を作ってくれたことがすごく嬉しかった。
立花さんは茶碗からレンゲですくったお粥を冷ますために息をふうふうと吹き掛けた。
「はい、どうぞ」
レンゲを私の口許にもってくる。
これは、もしかして……。
「口を開けないと食べれないだろ」
そう言って私の唇にレンゲをピタッとつける。
いやいや、さすがにこれは恥ずかしい。
目で訴えかけたけど、立花さんは気付かない振りをする。
「はい、あーんして」
何この羞恥プレイ……。
鼻通りもよくなり、お粥の美味しそうな匂いに負け、小さく口を開けるとお粥の優しい味が口の中にじわりと広がった。
やや薄味だったのでもう少し塩気があってもよかったけど、今まで食べたどのお粥よりも立花さんが作ってくれたものが一番美味しく感じた。