次期社長と訳あり偽装恋愛
高柳課長に私が風邪で早退したということを聞いて、私の状況を確認しようと連絡を入れてくれたんだろう。
私は寝ていて気が付かなかったけど。
立花さんは、わざわざ買い物をしてお粥まで作ってくれた。
ホントの彼女じゃないのに、こんなに優しくしてもらってもいいんだろうか?
でも、その優しさが嬉しくていつまでもそばにいて欲しいと思ってしまう。
「もう帰りますか?」
「えっ」
立花さんは驚きで目を見開いた。
私は何を口走った?
無意識に言ってしまった言葉に自分で驚く。
散々、お世話になったのにこれ以上何を望むというの。
少し心が弱っているのかもしれない。
「あの、何でもないです。今日はありがとうございました」
慌てて誤魔化し、視線を逸らした。
「まだ帰らないよ。河野さんが寝付くまでそばにいるから」
フッと笑いながら、私の心を見透かしたように大丈夫だからと言ってくれる。
頭を優しく撫でられると安心感を覚え、私はゆっくりと目を閉じた。
身体が熱を持っているし薬を飲んでいる影響もあり、睡魔はすぐに襲ってくる。
頬を撫でる手の冷たさが心地よくて甘えるようにすり寄った。
「あまり可愛いことしないで欲しいんだけど」
苦笑混じりのそんな呟きは寝ている私には聞こえなかった。