次期社長と訳あり偽装恋愛
「あぁ。河野さんが帰らないでって手を握ったまま離してくれないから」
「えっ……」
嘘でしょ。
熱でうなされてやらかしてしまったんだろうか。
どれだけ自分勝手なんだろう。
自己嫌悪に陥っていたら、クスクスと笑う声がした。
「冗談だよ。この部屋の鍵の場所が分からなくて、俺が帰っても鍵を閉めれないから不用心だと思って。それに病人の河野さんを一人にはさせれなかったからね」
冗談だったのか。
本気にしちゃったよ。
「それで申し訳ないんだけど、一度部屋に戻ってもいい?仕事に行く準備しないといけないから」
「あっ、どうぞどうぞ。むしろ、朝まで引き止めてしまって申し訳ないです」
「それは俺が君のそばにいたかっただけだから気にしなくていいよ」
ふわりと微笑みながら言われ、ドキッとした。
そんなことを言われてときめかないはずがない。
「朝飯は昨日炊いたご飯があるから雑炊でいい?雑炊のもとを買ってるから俺でも作れる」
茶目っ気たっぷりに言う。
昨日もいろいろしてくれたのに、甘えっぱなしは落ち着かない。
「あの、私が作りますよ」
「いや、俺が作るよ。河野さんはまだ熱があるんだから無理しないように。じゃあ、戻るね」
そう言うと、立花さんは玄関から出て行った。