次期社長と訳あり偽装恋愛
「いきなりだけど、今日の夜とか空いてない?」
「今日ですか?特に予定はありませんけど」
悲しいかな、平日の夜に予定は滅多に入ることはない。
「そっか。なら、ご飯食べに行こう。何が食べたい?」
「えっ……」
急展開に口をぽかんと開けてしまった。
何が食べたいとか言われても思いつかない……じゃなくて!
あー、バカ正直に予定がないとか言ってしまった。
もう、この流れはご飯を食べに行く感じだよね。
何てことをしてしまったんだ。
自分の口を縫い付けてしまいたくなる。
そうこうしているうちにエレベーターが三階に着き、扉が開く。
降りないといけないんだけど、会話の途中でとか失礼だよね。
降りるかどうしようか迷っていると、立花課長は名刺入れから名刺を一枚取り出し、その裏にスラスラと番号を書く。
「これ、俺のプライベートの番号。仕事が終わったら電話してもらってもいい?」
私の持っていた段ボールの上にその名刺を置いた。
そこには十一桁の数字が書かれている。
私が名刺と立花課長を交互に見ると、その視線に気づき笑顔を浮かべた。
エレベーターの扉が閉まりかけ、立花課長が『開』のボタンを押してくれている間に私は急いで降りた。
「連絡、待ってるから。仕事、頑張ってね」
振り返ると、ヒラヒラと手を振り立花課長はエレベーターの『閉』のボタンを押し、ゆっくりと扉が閉まった。