次期社長と訳あり偽装恋愛

食べ終えた食器を立花さんが洗ってくれている。
この光景は当たり前になりつつある。
私の部屋でご飯を食べた後は、立花さんが洗い物をしてくれるようになった。

最初は断ったけど、「ご飯を作ってもらってるから」と言って譲らなかった。
それで立花さんが洗い物をしている時に私がコーヒーの準備をしているけど、今日は要らないらしい。

私は薬を飲むと、洗い物をしている立花さんの背中を見つめた。
あの提案からもうすぐ一ヶ月経つ。

お弁当を作ったり、晩ご飯を一緒に食べたり、些細な出来事を話したりすることが日々の楽しみになり、立花さんからの連絡を待っている私がいた。
確実に私の中で立花さんの存在が大きくなっている。

「……い!おーい、河野さん」

洗い物をしていた立花さんが、いつの間にか私の目の前にいた。

「どうした?やっぱり調子が悪いのか?」

「いえ、大丈夫です。少し考え事をしていただけなので」

「それならいいけど」

「洗い物、ありがとうございました」

「どういたしまして」

そう言いながらビジネスバッグを手に取った。

あ、もう帰っちゃうんだ。
いつもなら、食事のあとにコーヒーを飲みつつテレビを見たりして話をするのに……。
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