血だらけペガサス
青柳倫太郎の世界



読んだ倫太郎はパタリと本を閉じだ。

誰かに見られているような気がしたからだ。

もしかしたら、誰かが、
今の自分を回想しているのかもしれない。

まあいいや。


それにしても
期待して損だと思った。
この本は本当に商業的に出版された書物なのか。


だとしたならあまりにも文章が稚拙ではないか。

例えばこの本が、何かのイベント時に発行された非売品なら内容は問わない。

文字が書かれてあること自体に意味があるのだ。

倫太郎はもう一度、時計に目をやった。

五時半。まだ三十分しか経っていない。

もう一度寝ようと思った。
もう一度寝むって、金縛りにあって、
少女とお話の続きをするのである。


彼は布団にバサリと倒れ込んだ。

枕をギュッと抱いて、毛布を引き上げた。
目を瞑って、さっきまでそこにいたはずの少女の温もりを探してみる。


いない。顔は見えないし、気配もない。

人ではないモノが現れて、体が動かなくなるという事もない。悲しかった。

最初に少女に出会った時は、
心の底から嬉しかったのに。


自分の人生に進展があると言われて心が躍ったのに。
もう気配さえ残さないで、髪の毛一本も残さないで。


倫太郎はバサリと起き上がって、今度は机の前に座った。
ノートパソコンを開く。

中一の時に、倫太郎の祖父から譲り受けたものだった。

ウインドウズXP。
サポートは終了しているけどまあまあ使えた。

ユーチューブでいろんな動画を見たり、
音楽を聴いたりした。別に面白くも何ともなかった。

曲もいつもより単調に聴こえた。そのうち一時間が経過した。

キッチンの方で、炊飯器が炊けたことを知らせるメロディーが鳴り響いた。

窓から差し込む光が深い青色からだんだん明るい白へと変わっていく。

「外に出てみようかな」

と彼は言って、制服に着替えた。

玄関のところまで行って、物音を立てないようにローファーを履いて、静かに扉を開いた。


彼の家はアパートの三階。まだ電気がついていない廊下に出る。すぐに清々しい秋の風を感じた。
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