God bless you!~第12話「あたしの力、あなたの涙」
これが……おそらくスランプ
模擬試験の結果が戻ってきた。
偏差値は、かなり落ちた。
気になっていた問題。俺の解答が、もれなくハズレている。
「ちょっと調子悪かったんだね」と、古屋先生は慰めてくれたけど、果てしなく落ち込む。
重森だけが、嬉しそうにやって来た。
「事実と向き合え。ポンコツに関わってるから偏差値落ちたんじゃないのかってさ」
頭にきた。
というより、どうして知っているのか。顔色で判断されてしまったとしか。いや、これはまたしても、いつもの、あれ。思いつきをブチ蒔けて相手の気を引き、その反応を楽しむという、悪魔の所行。
とはいえ、いつかの二の舞は避けなければならない。ブン殴りたい所だが、ここはグッと我慢する。
これは断じて右川のせいではない。成績が落ちて、右川のせいと言われるのが1番こたえる。
一部始終を聞いていた森畑は、「童貞クンが上から目線。そっちのがヤべーわ」と、ドスッと一撃、重森にブチ込んで、「ま、よく有る事だろ。今ツブれとけ。後は上がるだけ」と、こっちに向けて親指を突き出した。
どうも励ましてくれているらしい。
その日。
家に帰ってからも勉強に身が入らない。余計な事ばかり考える。
astonish、leap、urge……どれも、何度も辞書で調べた単語だ。
つまり、まだインプット出来てない。
〝スランプは頑張ってる証拠!〟
〝スランプ克服一週間メニュー〟
〝とことんスランプ祭り!〟
そんな記事ばかりを眺めてどうする。
これが……おそらくスランプ。
停滞期。
みんな、同じ24時間。同じように頑張っている。差がついたら取り戻せない。そんな事をグルグル考えて、朝を迎えた。この疲労感が勉強疲れなら、まだいいのに。
次の日、放課後の生徒会室には、阿木と浅枝が集まった。真木が遅れてやって来た。右川は居ない。今はアキラんとこ。桂木は受験準備で。
俺だって本当なら……。
1年3組が決まらない。
いつだったか明日までに決めて来いと言った後、ヤツらは誰一人として、やって来なかった。そして土日を挟み、また月曜日が巡って来た。それでも、やって来なかった。文化祭は、今週末に迫っているというのに。
「いやぁ、HRで毎日のように話し合ってんだけどね」と困っている原田先生の顔を立てて、もう1日だけ待つ事になり、そして火曜日、俺は朝イチでバレー部員、桐谷を呼び出す。
目に見えてビビっている。だが、これはそういう類いのお呼び出しではない。そんな事、わざわざ言わなくても分かるだろ。
俺自身の名誉のために言うけど、俺はそういう類いのお呼び出しを未だかつて後輩にやった事は無い。
「決まっても決まらなくても、とにかく誰か来い。進捗とか、説明ぐらいできるだろ」
はっきり目で脅した。だから、今日のうちには誰かが来るはず。
そんな一連の経過を話して聞かせた所、阿木は首を傾げた。
「決まってません、って報告に来るほど鈍感かしら」
浅枝も同じ方向に首を傾げて、「怒られると分かってたら来づらいですよね」と遠慮がちに頷く。
「3組はいい加減な人達ばっかりなんです。運動系は、常識が通じません。本当に来るかどうか」
と、今この中で唯一運動系に属する俺に当てつけたような発言をしたのは、真木だった。
「おまえのクラスだろ」
「……すみません」
「それ。何を謝ってんの」
「八当たりです。謝ります」
今、謝れ。
こういう時、思うのだ。
〝謝ります〟とは、これからの予定宣言というだけの事。
本当に謝った事になる気がしない。
ごめん。すまん。面目ない。かたじけない。何でもいいから何か言え。
こんな事に過敏に反応してムキになる……俺もどうかしてる。
腹の虫が収らない。模擬試験の結果のせいなのか、いつも以上に気が立っている。良くない兆候だと自分で分かるから、これ以上の炎上を避けて、ここからは真木に無視を決め込んだ。
「さっき3年1組が、やっぱりステージ使いたいって言ってきたわよ」
阿木がメモを渡すと、それを受けて浅枝がタイムスケジュールを広げた。
「てことは、もう埋まりましたね」
ため息が出た。
ステージの割り振りが、完了。
つまり、自動的に1年3組は模擬店になる。そうなったらなったで、まとまって上手くやれるのか。準備なら準備でまたケンカなのか。
頭を抱える。
これ以上ここに居る事も無いと判断したのか、阿木と浅枝は、それぞれの雑用に散った。
「僕は、もう彼女なんか作りません。女子なんか」と口先に不満を漂わせて、真木も出て行く。
それは……またしても俺に当てつけた発言に聞こえたぞ。
クソババァの一件を思って、やっぱりこれも無視した。(してやった。)
そこへ、右川が入ってくる。
「アキラに勝った~!ビクトリー!」
聞けば、何のことはない。小論文がうまく出来たということで。お褒めの言葉を頂いたらしい。右川のお陰で空気が入れ変わって、次第に俺の気も晴れて……そう上手くいけば言う事無いんだけど。
いつものように、右川と2人だけになる。時計の音が妙に響いた。
程なくして、「あいつら来たの?」
俺は首を振る。
あいつらも、真木も、自分の事情も、全てが渦巻いて込み上げた。
どん!
思わず、テーブルを叩く。
「どういう気なんだ!」
右川に八当たりしたって始まらない。それは分かっている。
分かっているけど……「てへ♪」と笑ってお菓子を安全な場所に避難させるその姿を、忌々しく睨んだ。
そこへ、1年3組の桐谷と波田野の来訪が告げられる。
ちゃんと来たからいいってもんでもない。
わずか5秒差でバラバラに入って来た。未だ対立は根深い。
もうステージは埋まってしまったと伝えると、桐谷が、「あぁぁー」と頭を抱えてうずくまった。
「女子がいつまでも頑固だから。簡単に合唱で済むはずだったのに!」
「男子が文句言わなきゃ、今頃段取りは終わってんだよ。今から準備すんの?時間が無いじゃん。どうしてくれんのよ!」と波田野は桐谷を責める。
「だから言ったろ!合唱なら準備なんか1日も掛かんないんだって。オレの時間返せ!」
「だったら、あんたがピアノ弾きなさいよね!」
聞きたくない。
もうウンザリ。
「うるさい!もうここから出ていけ!」
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