God bless you!~第12話「あたしの力、あなたの涙」
1度閉じる……後に続くのは、見た事も無い図形問題
〝生徒会室に立ち入り禁止〟
〝文化祭に関与禁止〟
勝手に言い渡され、こっちはド頭に来て、今日は早々に塾に来た。
さっそく課題を開く。
円の面積問題。似たような図形をどっかで見たような気がして、テキストをどんどんめくって遡った。
思う所がなかなか出てこない。あれ?学校のプリントだったかな。探している時間が勿体ないから、5分で解けないときは、潔く解答を覗こう……こういう事が昨日もあったような。溜め息も。
「聞いて下さいよ。俺なんか、願かけてソレ断ち、させられてるっすよ」
早く来ていた森畑が、山下さんを相手にずっと雑談に沸いている。
大した余裕だな。
「よくあるよね。合格するまでは無しって言う」
「それですよ!ふざけんなだ。中間だろうが期末だろうがやって来て、今更だよな?」
最後は俺に向かって問い掛けた。
適当に困りながら相槌を打っておこう。悪いけど、俺は加われない。
山下さんを前に、そんな話になったらほんとヤバい。それに、今はそんな話をする気分になれない。
そこへ、タイミングを見計らって重森が口を挟んだ。
「こいつの女、中学んときもう経験済みらしいですよ」
性懲りも無く。
その右川と目の前の山下先生が繋がっているとは、未だ知らないらしい。
「へぇ。意外に肉食なの?おまえの、そいつって」
「そんな訳ないって」
森畑ともあろう輩が、何故重森のブラフに易々と釣られるのか。
俺は、それが不思議で仕方ない。
その頃あいつは山下さん一筋だ。重森は、あの手この手で俺を不安に陥れるつもりだろうが、言えば言うほど笑けてくる。それを山下さんも笑いながら聞き流して、
「それで、沢村くんて、そういうの、いつ頃なの?」
一瞬、センター試験の日程が頭に浮かんだが、そうではなかった。
「そんなこと、真顔で聞かないでくださいよ」
大人でしょ。
山下さんは、「ははは」と取って付けたように笑う。
もしかしてと思うけど、山下さんは、試験の事で俺が落ち込んでいるのを知って、わざと脳天気な話に引き込もうとしているとか。
それが何故か、森畑の追求に火を付けてしまう。
「はいはいはい!」と挙手。やけに熱く主張すると思ったら、
「俺が当ててやろうか」
「いいよ、そんな」
「中学3年!」
目の前で、指をさされて、「うっ」と詰まった。
重森は、まさか……という驚きの視線を送る。
山下さんは変わらずに笑っている。
右川には黙ったらまずいだろ、と忠告しておいて、自分が黙った……俺は軽いショックを覚える。一瞬でも黙ってしまえば次に何か言うと、それは明らかに誤魔化しになるから。
もう何も言わないぞ。
強い意志で森畑から目線をそらした。
俺は課題をやっている人。この沈黙を周りがどう判断したかは知らない。
重森あたり、この話を都合よく作り変えて、右川に吹き込んだりしないだろうか。それが少し頭をかすめる。
俺は、空気の読めない大馬鹿者です。ツマんない野郎です。気の利いたオチも言えません。非難を承知で、俺はだんまりを決め込んだ。
課題に戻る。正直、森畑たちの雑談に一緒になって盛り上がっている場合じゃないと思った。
時間は流れる。殆ど意味が分かっても、1つの単語が分からないだけで寒気がする。
1度閉じる。
こうやってる逃げてる間も、時間は止めどなく流れるから……本当に国立は無理かもしれない。
受けるのやめようか。
そこへ、また新しい課題が配られる。
最後のリハーサルとかで、今日もバンドがステージで練習していた。
舞台裏でそれを聞きながら、こっちはアンプの位置を確認。だが実際、頭の中では、まだやりかけの課題がグルグルと回っている。1度パッと見ただけだが、3問目の図形問題。あんな形、見たこと無い。もう課題を開く自信が無い。そんな事を考えていたら、横から3年演劇部の女子が話しかけてきた。
「手伝いとかしていいの?文化祭に関わるなって会長命令なんでしょ」
「え?」
もうそんな末端まで知られているのかと唖然とした。
「だって、掲示板に張り紙出てたよ」
「マジで?知らなかった」
そこまでやるか。
「悪いんだけど、暗幕と延長コードが足りなくて。どっかに無い?」
バンドの奴らと違って、この女子は滅多に頼み事をしない。よっぽど困っての事だろう。
どうにかしてやりたいと思うけど……塾の時間まで、あと45分。
課題も中途半端。他は何の予習もしてない。早く終わらせないと間に合わない。そんなことを考えて、ちょっとイライラした。
「倉庫とか、探したのかよ」
「暗幕は2つあった。あともう1つ欲しくて。体育倉庫も一応見た」
「延長コードって、あといくつ?」
「それは1つでいい」
生徒会室に。
「ある。取ってくるよ」
「入っちゃって平気?」と、女子が不安げに聞いた。
「平気だよ」
それを気にする位なら、最初から頼むな。
女子は俺と微妙な距離を取りながら、途中まで後を付いて来る。
俺がイラついているのを感じ取ったかもしれない。途中で知り合いを見つけて、渡りに船とばかりに捕まっていた。
結果、俺一人で生徒会室に向かう。
入れないと言っても阿木などは荷物を取りにちょくちょく入っている。
俺が右川に指1本触れなきゃいいんだろ!と捨て鉢な気分だ。
さっさと取りに行く。
それだけ渡したら、今日は終わり。
後に続くのは、見た事も無い図形問題。
〝文化祭に関与禁止〟
勝手に言い渡され、こっちはド頭に来て、今日は早々に塾に来た。
さっそく課題を開く。
円の面積問題。似たような図形をどっかで見たような気がして、テキストをどんどんめくって遡った。
思う所がなかなか出てこない。あれ?学校のプリントだったかな。探している時間が勿体ないから、5分で解けないときは、潔く解答を覗こう……こういう事が昨日もあったような。溜め息も。
「聞いて下さいよ。俺なんか、願かけてソレ断ち、させられてるっすよ」
早く来ていた森畑が、山下さんを相手にずっと雑談に沸いている。
大した余裕だな。
「よくあるよね。合格するまでは無しって言う」
「それですよ!ふざけんなだ。中間だろうが期末だろうがやって来て、今更だよな?」
最後は俺に向かって問い掛けた。
適当に困りながら相槌を打っておこう。悪いけど、俺は加われない。
山下さんを前に、そんな話になったらほんとヤバい。それに、今はそんな話をする気分になれない。
そこへ、タイミングを見計らって重森が口を挟んだ。
「こいつの女、中学んときもう経験済みらしいですよ」
性懲りも無く。
その右川と目の前の山下先生が繋がっているとは、未だ知らないらしい。
「へぇ。意外に肉食なの?おまえの、そいつって」
「そんな訳ないって」
森畑ともあろう輩が、何故重森のブラフに易々と釣られるのか。
俺は、それが不思議で仕方ない。
その頃あいつは山下さん一筋だ。重森は、あの手この手で俺を不安に陥れるつもりだろうが、言えば言うほど笑けてくる。それを山下さんも笑いながら聞き流して、
「それで、沢村くんて、そういうの、いつ頃なの?」
一瞬、センター試験の日程が頭に浮かんだが、そうではなかった。
「そんなこと、真顔で聞かないでくださいよ」
大人でしょ。
山下さんは、「ははは」と取って付けたように笑う。
もしかしてと思うけど、山下さんは、試験の事で俺が落ち込んでいるのを知って、わざと脳天気な話に引き込もうとしているとか。
それが何故か、森畑の追求に火を付けてしまう。
「はいはいはい!」と挙手。やけに熱く主張すると思ったら、
「俺が当ててやろうか」
「いいよ、そんな」
「中学3年!」
目の前で、指をさされて、「うっ」と詰まった。
重森は、まさか……という驚きの視線を送る。
山下さんは変わらずに笑っている。
右川には黙ったらまずいだろ、と忠告しておいて、自分が黙った……俺は軽いショックを覚える。一瞬でも黙ってしまえば次に何か言うと、それは明らかに誤魔化しになるから。
もう何も言わないぞ。
強い意志で森畑から目線をそらした。
俺は課題をやっている人。この沈黙を周りがどう判断したかは知らない。
重森あたり、この話を都合よく作り変えて、右川に吹き込んだりしないだろうか。それが少し頭をかすめる。
俺は、空気の読めない大馬鹿者です。ツマんない野郎です。気の利いたオチも言えません。非難を承知で、俺はだんまりを決め込んだ。
課題に戻る。正直、森畑たちの雑談に一緒になって盛り上がっている場合じゃないと思った。
時間は流れる。殆ど意味が分かっても、1つの単語が分からないだけで寒気がする。
1度閉じる。
こうやってる逃げてる間も、時間は止めどなく流れるから……本当に国立は無理かもしれない。
受けるのやめようか。
そこへ、また新しい課題が配られる。
最後のリハーサルとかで、今日もバンドがステージで練習していた。
舞台裏でそれを聞きながら、こっちはアンプの位置を確認。だが実際、頭の中では、まだやりかけの課題がグルグルと回っている。1度パッと見ただけだが、3問目の図形問題。あんな形、見たこと無い。もう課題を開く自信が無い。そんな事を考えていたら、横から3年演劇部の女子が話しかけてきた。
「手伝いとかしていいの?文化祭に関わるなって会長命令なんでしょ」
「え?」
もうそんな末端まで知られているのかと唖然とした。
「だって、掲示板に張り紙出てたよ」
「マジで?知らなかった」
そこまでやるか。
「悪いんだけど、暗幕と延長コードが足りなくて。どっかに無い?」
バンドの奴らと違って、この女子は滅多に頼み事をしない。よっぽど困っての事だろう。
どうにかしてやりたいと思うけど……塾の時間まで、あと45分。
課題も中途半端。他は何の予習もしてない。早く終わらせないと間に合わない。そんなことを考えて、ちょっとイライラした。
「倉庫とか、探したのかよ」
「暗幕は2つあった。あともう1つ欲しくて。体育倉庫も一応見た」
「延長コードって、あといくつ?」
「それは1つでいい」
生徒会室に。
「ある。取ってくるよ」
「入っちゃって平気?」と、女子が不安げに聞いた。
「平気だよ」
それを気にする位なら、最初から頼むな。
女子は俺と微妙な距離を取りながら、途中まで後を付いて来る。
俺がイラついているのを感じ取ったかもしれない。途中で知り合いを見つけて、渡りに船とばかりに捕まっていた。
結果、俺一人で生徒会室に向かう。
入れないと言っても阿木などは荷物を取りにちょくちょく入っている。
俺が右川に指1本触れなきゃいいんだろ!と捨て鉢な気分だ。
さっさと取りに行く。
それだけ渡したら、今日は終わり。
後に続くのは、見た事も無い図形問題。