God bless you!~第12話「あたしの力、あなたの涙」
★★★右川カズミですが……ある~日♪重森に、また会ってしまった。
ある~日♪重森に、また会ってしまった。
生徒会室に、あたしが1人でいた時の事である。
今日、沢村は塾だから、塾の無いあたしとは、どっちにしても別々の日だ。立ち入り禁止を言い渡してからというもの、微妙に絡みづらくてまともに話せていない。これも、どっちにしても別々って事で。
立ち入り禁止は、お仕置き半分。
そして、思いやり半分……なんて、いい加減。
あたしも成長しないな、とそんな事を考えてクッキーをつまんでいたその時、ドアがゆっくりと開いた。
約束していたチャラ枝さんとヤサグレ真木くんだと思って、笑顔全開!
「いやっほう♪らっしゃーい」
だが、そこに立つのは、重森だった。
「よぉ」と口先で挨拶くれた後、
「会長ぉ、OBの控室、どうなってんだ。狭い。ていうか、セコい」
またしても敵意満々。
あたしのテンションは、ダダ下がり。
「あんたも懲りないね。一生そこで我慢しろ。ばーか」
「うるせぇ!馬鹿とか言ってんじゃねーよ!」と重森は震えた。
今日は何だか笑える。
「おまえの彼氏、こないだの模試が最悪でさ。国立無理だって。誰のせいだろうな」
これは本当だ。
こないだ暗幕の影から様子を窺ったら、かなりナーバスになっている。
だからと言って、こいつの手には乗らないけど。いつものように、「そだね」と軽く流す。
「沢村のヤツ、中3でヤってるみたいだぞ」
「そだね」
「相手は巨乳だったらしい」
「そだね」
「ま、男はどんなに女の顔がブサイクでも、ヤれるからな」
「そだね」
「ところで、おまえらって、もうした?」
「てゆうか、あんた実の所、そういうの全部まだでしょ」
重森が怯んだ。
「その予定も無いでしょ?」と、突っ込んだ時、重森の表情に影が差す。
敵の1番痛い所を刺す!この勝負はこっちに採算があると見た。
「普通はさ、女子相手にここまで絡まないよ?しつこい性格どうにかしたら?イジめっ子ってさ、立場変わったらイジメられっ子っていうよね。あんたの事じゃん。惨めだねぇぇぇ~♪あんたがいいって言う女子の話も全然聞かねーワ。あんた一体いつになったら、ヤれんだろ。ごめんねぇぇぇ。お先にぃぃぃ~」
重森は握った拳をピクピクさせて、こちらに向かってきた。
あたしも立ち上がる。
そっちがそう来るなら、こっちだって!
お互い、睨み合った。
その時である。
秋というには少々冷たい風が吹き込んだ。見ると少し窓が開いている。
気に障ったのか、重森がそれを乱暴に閉めた。
ばたん!という音を最後に、何の音もしない。重森が、溜め息にも似た呼吸を繰り返す以外は。
重森は、そこから静かに近付いてきた。一歩一歩、やけに気を持たせてその距離を縮めてくる。
次は何をカマして穴落ちする気だろうか。
その時だ。
ふと、いつかの黒川の言葉が頭をよぎる。
〝喧嘩と、あれ〟
いちゃいちゃすんな、と2つを同じ次元に置いた、あの叫び。
沢村とあたしは喧嘩だらけ。そう言えば、重森とも、ずっと喧嘩だらけ。
付き合ってる沢村は別として、そんな重森自身にとって屈辱的な……ああいう事、したい訳がない。
あたしみたいな嫌な女に触るとか、絶対やりたくないはずだ。
今度はいつかの男子の言葉がフラッシュバックする。
〝男はどんなブサイクでも平気。嫌でもやらざるをえないんだから〟
同時に、いつかの沢村の、苦しそうな表情が浮かんできた。
もしかして、本当は嫌だったとか?んな訳ないよね?!
嫌でも出来る、云々。まさか重森も同じなの?
嫌でも出来る……の?
迫り来る重森に重なって、途端、謂われのない恐怖が立ち上った。
「ごめん!ほんっとごめん!マジで悪かった!超・謝罪!謝るからさ、機嫌なおそ?!重森先生!!」
てへ♪とか誤魔化してる場合じゃなかった。
後ずさりしているうちに、壁に行き止まってしまう。
そこで、重森も立ち止まる。
「勘違いすんな、ブス。地球でたった2人になっても、おまえとなんか」
何故、そこで止まる!?
考えるんじゃない!考えなくていいから!あたしが考えたくないっ!
重森は、あたしの頭を上から鷲掴みした。その手が、妙に生温かい。
「かーわいいー」
棒読みで呟きながら、重森はあたしのアタマを無造作に撫でた。すぐに乱暴に弾かれて、ちょっとだけ、くらくら眩暈がする。重森の目線を避けて真横にずれて、隙を狙って逃げだそうとしていたら、たちどころ、その先、重森に逃げ場を塞がれた。
「おまえが怯えると面白ぇな」
重森は口先で笑う。
「おまえ、寂しくないか」
「べ、別にっ」
「だって、沢村は立ち入り禁止なんだろ」
「そうだけど、ちょっとの間だし」
「だーかーらー……そうだな。俺が時々、来てやるよ」
「え……」
「せっかくだから、仲良く遊ぼうぜ。色々と」
重森は、意味深な目配せをして、生徒会室を出て行った。
やけに震えが止まらない。
何だか……困ったことになってきた。
その後、約束のチャラ枝さんとヤサグレ真木くんがやって来た。
ここから、文化祭の打ち合わせに入る。
といっても、殆ど実行委員の間で準備は進んでいるし、特に遅れの目立つ団体もないから、生徒会が口を出す事は無い。
ある1つの困った事案を除いて……とはつまり、1年3組以外は順調だという報告を聞いて、今日はお開きとなった。
1年3組。これには、ちょっと考えがある。今は検討中。
それを言うと、「わぁ何だろ。楽しみだな。あたしどんな女優も演じますぅ、右川監督」と、チャラ枝さんは予想以上の大役を期待しているな。
「大丈夫でしょうか。先輩の言う事に素直に従う人達じゃないと思うんですけど」
ヤサグレ真木くんは、未だ悲壮感に溺れている。
「1年3組に関しては、全ては会長1人の独断。真木くんはただただ、責任逃れをすればいいの」
それを言うと、「そういう僕って、卑怯者ですね」と、さらに深みにハマりそうになる。都合良く、ヤサグレてはくれないんだからぁ。もうー。
ふっふっふ。
見てろよぉ。
面白いことにしてやるぞ♪
チャラ枝さんと真木くんが、生徒会室を出ていこうとした所を、あたしは慌てて引き止めた。
「もう、あたしらに気使わなくていいんだよ?ここに居りゃいいじゃん」
「でも、僕これから練習があるんです。早く行かないと怒られます」
「私は、展示物の確認に行きます。今年は結構あるからもう大変で」
「えぇぇー……」
チャラ枝さんはこちらを窺うように顔を覗き込んで、
「掲示板なんかに出しちゃって。沢村先輩どんどん来づらくなっちゃいますよ。本当にいいんですか?」
「いや、それは、いいんだけど」
「右川先輩、何か、怯えてません?」
「え?」
怯えてる。確かに。そうでげす。だけどこの説明はしたくない。
「じゃ、行きますね。彼氏の前で、あんまり意地張らない方がいいですよ」と、チャラ枝さんはウインクを決め、「クラスの事もあるし。僕なんかがいると沢村先輩も入りにくいだろうから」と、ヤサグレ真木くんは余計な気を回して、2人共出て行ってしまった。
あちゃー……。
独りきり。
静まり返った生徒会室。
ピーンチ!
ふと思いついて、内側からドアに鍵を掛けた。
そして、そこら辺の段ボール荷物を積み上げる。
これで重森のヤツは入れない。来たら来たで、またやっつければいいんだよ……と、1度は考えた。
だがいつかの、重森とのゴミ置き場での乱闘を思い出す。
あの時は、重森に押されて焼却炉にぶつかったのだ。
あいつにも力が無いわけじゃない。
思えば、今まで2回勝てたのは、運もあった。
修学旅行。駅の階段はあたしが上、重森が下にいて位置的にあたしが有利。
溜池の乱。あいつは泳げないから、池ではあたしが精神的に有利。
何の変哲もない生徒会室。
重森が本気を出したら、もしかしたら敵わないんじゃないか。
沢村だって細く見えて結構ゴツい体をしているし、だから重森もあー見えて……。
その時、ドアノブを、がちゃがちゃと動かす音がした。
生徒会室に、あたしが1人でいた時の事である。
今日、沢村は塾だから、塾の無いあたしとは、どっちにしても別々の日だ。立ち入り禁止を言い渡してからというもの、微妙に絡みづらくてまともに話せていない。これも、どっちにしても別々って事で。
立ち入り禁止は、お仕置き半分。
そして、思いやり半分……なんて、いい加減。
あたしも成長しないな、とそんな事を考えてクッキーをつまんでいたその時、ドアがゆっくりと開いた。
約束していたチャラ枝さんとヤサグレ真木くんだと思って、笑顔全開!
「いやっほう♪らっしゃーい」
だが、そこに立つのは、重森だった。
「よぉ」と口先で挨拶くれた後、
「会長ぉ、OBの控室、どうなってんだ。狭い。ていうか、セコい」
またしても敵意満々。
あたしのテンションは、ダダ下がり。
「あんたも懲りないね。一生そこで我慢しろ。ばーか」
「うるせぇ!馬鹿とか言ってんじゃねーよ!」と重森は震えた。
今日は何だか笑える。
「おまえの彼氏、こないだの模試が最悪でさ。国立無理だって。誰のせいだろうな」
これは本当だ。
こないだ暗幕の影から様子を窺ったら、かなりナーバスになっている。
だからと言って、こいつの手には乗らないけど。いつものように、「そだね」と軽く流す。
「沢村のヤツ、中3でヤってるみたいだぞ」
「そだね」
「相手は巨乳だったらしい」
「そだね」
「ま、男はどんなに女の顔がブサイクでも、ヤれるからな」
「そだね」
「ところで、おまえらって、もうした?」
「てゆうか、あんた実の所、そういうの全部まだでしょ」
重森が怯んだ。
「その予定も無いでしょ?」と、突っ込んだ時、重森の表情に影が差す。
敵の1番痛い所を刺す!この勝負はこっちに採算があると見た。
「普通はさ、女子相手にここまで絡まないよ?しつこい性格どうにかしたら?イジめっ子ってさ、立場変わったらイジメられっ子っていうよね。あんたの事じゃん。惨めだねぇぇぇ~♪あんたがいいって言う女子の話も全然聞かねーワ。あんた一体いつになったら、ヤれんだろ。ごめんねぇぇぇ。お先にぃぃぃ~」
重森は握った拳をピクピクさせて、こちらに向かってきた。
あたしも立ち上がる。
そっちがそう来るなら、こっちだって!
お互い、睨み合った。
その時である。
秋というには少々冷たい風が吹き込んだ。見ると少し窓が開いている。
気に障ったのか、重森がそれを乱暴に閉めた。
ばたん!という音を最後に、何の音もしない。重森が、溜め息にも似た呼吸を繰り返す以外は。
重森は、そこから静かに近付いてきた。一歩一歩、やけに気を持たせてその距離を縮めてくる。
次は何をカマして穴落ちする気だろうか。
その時だ。
ふと、いつかの黒川の言葉が頭をよぎる。
〝喧嘩と、あれ〟
いちゃいちゃすんな、と2つを同じ次元に置いた、あの叫び。
沢村とあたしは喧嘩だらけ。そう言えば、重森とも、ずっと喧嘩だらけ。
付き合ってる沢村は別として、そんな重森自身にとって屈辱的な……ああいう事、したい訳がない。
あたしみたいな嫌な女に触るとか、絶対やりたくないはずだ。
今度はいつかの男子の言葉がフラッシュバックする。
〝男はどんなブサイクでも平気。嫌でもやらざるをえないんだから〟
同時に、いつかの沢村の、苦しそうな表情が浮かんできた。
もしかして、本当は嫌だったとか?んな訳ないよね?!
嫌でも出来る、云々。まさか重森も同じなの?
嫌でも出来る……の?
迫り来る重森に重なって、途端、謂われのない恐怖が立ち上った。
「ごめん!ほんっとごめん!マジで悪かった!超・謝罪!謝るからさ、機嫌なおそ?!重森先生!!」
てへ♪とか誤魔化してる場合じゃなかった。
後ずさりしているうちに、壁に行き止まってしまう。
そこで、重森も立ち止まる。
「勘違いすんな、ブス。地球でたった2人になっても、おまえとなんか」
何故、そこで止まる!?
考えるんじゃない!考えなくていいから!あたしが考えたくないっ!
重森は、あたしの頭を上から鷲掴みした。その手が、妙に生温かい。
「かーわいいー」
棒読みで呟きながら、重森はあたしのアタマを無造作に撫でた。すぐに乱暴に弾かれて、ちょっとだけ、くらくら眩暈がする。重森の目線を避けて真横にずれて、隙を狙って逃げだそうとしていたら、たちどころ、その先、重森に逃げ場を塞がれた。
「おまえが怯えると面白ぇな」
重森は口先で笑う。
「おまえ、寂しくないか」
「べ、別にっ」
「だって、沢村は立ち入り禁止なんだろ」
「そうだけど、ちょっとの間だし」
「だーかーらー……そうだな。俺が時々、来てやるよ」
「え……」
「せっかくだから、仲良く遊ぼうぜ。色々と」
重森は、意味深な目配せをして、生徒会室を出て行った。
やけに震えが止まらない。
何だか……困ったことになってきた。
その後、約束のチャラ枝さんとヤサグレ真木くんがやって来た。
ここから、文化祭の打ち合わせに入る。
といっても、殆ど実行委員の間で準備は進んでいるし、特に遅れの目立つ団体もないから、生徒会が口を出す事は無い。
ある1つの困った事案を除いて……とはつまり、1年3組以外は順調だという報告を聞いて、今日はお開きとなった。
1年3組。これには、ちょっと考えがある。今は検討中。
それを言うと、「わぁ何だろ。楽しみだな。あたしどんな女優も演じますぅ、右川監督」と、チャラ枝さんは予想以上の大役を期待しているな。
「大丈夫でしょうか。先輩の言う事に素直に従う人達じゃないと思うんですけど」
ヤサグレ真木くんは、未だ悲壮感に溺れている。
「1年3組に関しては、全ては会長1人の独断。真木くんはただただ、責任逃れをすればいいの」
それを言うと、「そういう僕って、卑怯者ですね」と、さらに深みにハマりそうになる。都合良く、ヤサグレてはくれないんだからぁ。もうー。
ふっふっふ。
見てろよぉ。
面白いことにしてやるぞ♪
チャラ枝さんと真木くんが、生徒会室を出ていこうとした所を、あたしは慌てて引き止めた。
「もう、あたしらに気使わなくていいんだよ?ここに居りゃいいじゃん」
「でも、僕これから練習があるんです。早く行かないと怒られます」
「私は、展示物の確認に行きます。今年は結構あるからもう大変で」
「えぇぇー……」
チャラ枝さんはこちらを窺うように顔を覗き込んで、
「掲示板なんかに出しちゃって。沢村先輩どんどん来づらくなっちゃいますよ。本当にいいんですか?」
「いや、それは、いいんだけど」
「右川先輩、何か、怯えてません?」
「え?」
怯えてる。確かに。そうでげす。だけどこの説明はしたくない。
「じゃ、行きますね。彼氏の前で、あんまり意地張らない方がいいですよ」と、チャラ枝さんはウインクを決め、「クラスの事もあるし。僕なんかがいると沢村先輩も入りにくいだろうから」と、ヤサグレ真木くんは余計な気を回して、2人共出て行ってしまった。
あちゃー……。
独りきり。
静まり返った生徒会室。
ピーンチ!
ふと思いついて、内側からドアに鍵を掛けた。
そして、そこら辺の段ボール荷物を積み上げる。
これで重森のヤツは入れない。来たら来たで、またやっつければいいんだよ……と、1度は考えた。
だがいつかの、重森とのゴミ置き場での乱闘を思い出す。
あの時は、重森に押されて焼却炉にぶつかったのだ。
あいつにも力が無いわけじゃない。
思えば、今まで2回勝てたのは、運もあった。
修学旅行。駅の階段はあたしが上、重森が下にいて位置的にあたしが有利。
溜池の乱。あいつは泳げないから、池ではあたしが精神的に有利。
何の変哲もない生徒会室。
重森が本気を出したら、もしかしたら敵わないんじゃないか。
沢村だって細く見えて結構ゴツい体をしているし、だから重森もあー見えて……。
その時、ドアノブを、がちゃがちゃと動かす音がした。