God bless you!~第12話「あたしの力、あなたの涙」
沢村先輩に見てもらいたいです
昨日を最後にステージには行かなくなった。
浅枝が忙しく立ち回っているのを見て、特に大きなトラブルも聞かない事から、俺は不要だと判断。
順調だと思う。
とはいえ、気になる。何と言っても、1年3組のことがあるから。
損な性分って、こういう事を言うんだな。
HRの時間を準備に宛てていると聞いて、恐る恐る1年3組を窺ったら、もぬけの殻だった。
あのまま、女子の言いなりで模擬店にしたのか。だとしても、桐谷を始めとする強気な男子が素直に従っているとも思えない。このあたり、何も聞こえて来なかった。
半分抜け殻状態で文化祭をやり過ごすバスケ部は置いといて、2日間大活躍の吹奏楽部はリハーサルに追い込みを掛けている。練習場所に当てている視聴覚室を通り掛かったら、「文化祭、マジ痩せる」「ていうか、魂を吸い取られるぅ」という女子部員の嘆き(喜び?)が飛び込んできた。
俺と目が合って、ぺこっと会釈。その肩越し向こうに重森がいる。
見つけた……とか思ってんじゃねーよ。
やっぱりと言うか、おもむろにスリ寄ってきて、
「あの女と仲直りしたのかよ」
これは純粋に心配なのか。それとも、自分が蒔いた情報のその先、どんな事件があったかを知りたいだけなのか。(間違いなく後者。)
「別にケンカした訳じゃないから」
「そうか」
そのまま通り過ぎて行った。
意外に、呆気ない。これはこれで気持ちが悪い。
右川が教室から消えてすぐの休憩時間。俺は何度も生徒会室を窺った。
右川が居る筈だ。
だが何故か、いつ行っても内側からカギが掛かっている。
2時間目も、3時間目も。いつ行っても。
何故、生徒会室をあそこまで厳重にする必要があるのか。それが不思議。
そのくせ窓は開けっ放しである。中庭に回ると、開けっ放しの窓から右川の背中が丸見えだ。
頼まれごとが無ければ、特に用も無いので飛び込む必要はない。
そんなこんなでお昼休みになる。右川は、どこかで集まる予定があるからと、消える。生徒会室だったり、よその部室だったりするらしいけど。ぷいと言い捨てていくその様は、大層あっけない。
会話(と言えるか?)があるだけマシなのか。1日中、ラインでしかやり取りしない日もあって。
『朝は先に行って。お昼も適当にやって。放課後も好きにして。以上』
事務的。無機質。消極的なくだり。ここ最近、そんなラインばっかり。
確かに色々あって言い合いもした。
でも、そこまで徹底的に避けなくてもいいじゃないかと思う。いつかは俺を手伝ってくれようとした事もある。あれは譲歩と見えた。訳が分からない。
俺は、思い切って2年のクラスに浅枝を訪ねた。
鍵の件は、浅枝も知らなかった。真木と共に生徒会室に入る前にはラインで連絡をくれと、「連絡しなかったら開けないよ~」と右川から厳しく言われているらしい。
やっぱり徹底的だった。
だけど窓は開いている。
「……」
(考えるのを辞めよう。)浅枝を目の前に、俺はさっそく本題。
浅枝は、1年3組の件も右川から口止めされていると言う。
なるほど。それは想定内だ。
「内緒で教えてくれよ。もし右川が暴走したら、どうする?そしたら誰が止める?困るのは浅枝だろ」
俺は追求&説得の手を緩める気は無い。
すると、浅枝はおもむろに1枚の紙を取り出した。
それを開いて、
「〝あんたの行動はお見通し。悪いけどチャラ枝さんはスパイなんてしないから。遠回りするな。さっさと塾に行け。そ、それじゃあねー……〟」
きょ、きょ、きょ……そこから先が言えないとして震えている浅枝から、俺は紙をもぎ取った。
〝巨乳好きの沢村先生へ♪〟
「あ、あの野郎!」
「あ、待って、待って下さいっ!」
浅枝は、俺の腕を掴んで引き止めた。
「あの、あの!去年もそうだったじゃないですか!永田さん達も文化祭は半分遊んでたっていうか。やっぱり右川会長の言うように勉強も大変だし。それに……」
浅枝はゴクンと何やら覚悟のようなモノを飲みこんで、
「もう私達でも何とか頑張れるんだって、沢村先輩に見てもらいたいです」
1年という時間。
それがまた別の次元から迫ってくる。
俺もそうだった。
浅枝もいつの間にか成長している。こうやって、繋がっていくんだな。
そこは信じてやりたい。ちゃんと見届けてやらないと、と思う。
去年は金の件で色々と揉めた。もし今年もそんな事があったとして、俺の知らない所で浅枝や真木が悩んでいたらと思うと……永田さんには、かなり心配を掛けたな。改めて思い知る。
「分かった」
もう説得は無意味だと思った。
重ねて、
「だけど、何か困る事があったら、本当にちゃんと言って来いよ」
1人で抱えなくていい。
浅枝も去年の事を覚えているだろう。「はい」と神妙に頷いた。
2年の教室を出ようとしたその時、何となく引っかかる気配がする。
俺はひょいと振り返った。
そこには……そんな俺に全く気付かず、天に向かってガッツポーズを決める浅枝がいる。どういう意気込み?
俺が見ている事に気づいて、浅枝は飛び上がり、「あっ!」と声をあげた。
「ん?」
「違うんですっ!」
「え?」
「違うんです!違うんです!違うんです!」
「いや、そんな慌てなくても」
「だから、だから、こう言えばって、言葉を考えたのは右川先輩ですよ?でも、でも、あああああああたしも、そうだなーって!そうだなーって!本当に!本当にっ、聞いててそう思ったんですっ!」
哀れな位に、うろたえていた。
……何も言うまい。言ってもムダだろう。
てゆうか、呆れて笑けてきたよ。もういいって。
「本当に、ちゃんと任せたからな」と最後に言って出た。
塾に行け。
勉強に集中。
恵まれた状況のなかで、肝心な自分がまだ立ち直れずにいる。
御触れが掲示板に出てからというもの、確かに、細かい用事を言い渡される事は少なくなった。
あの時、俺の荷物を奪った右川を見て、意図は理解できた。純粋に勉強に向かわせてくれたんだと思う。しかし、そんな思いやりに反して、俺はどんどん虚ろになって。
国立受験を辞める。
日に日に考え始めた。
こんな俺のままでずっと続いたら右川に申し訳ないとさえ思う。
それだったらいっそのこと辞めてしまえば。
今日みたいな塾の無い日は、いつにもまして自分独りの戦いだ。
今日は何をやろう。とか言ってる場合じゃない。問題がどんどん浮かんできた。有りすぎて。
1年3組も確かに気になる。右川の事だ。何かいい考えがあるんだろう。
右川と色々あった事も……もう悩んでないようだから良しとして。
俺は何をやってるんだろう。
放課後も、相変わらず生徒会室は厳重だった。
文化祭が終わる頃には機嫌も直り、森畑じゃないけど受験が終わったら。
それがどんな結果だろうと、その時は……覚悟してもらうぞ、と言えるだろうか。
堂々と胸を張って、言えるだろうか。
浅枝が忙しく立ち回っているのを見て、特に大きなトラブルも聞かない事から、俺は不要だと判断。
順調だと思う。
とはいえ、気になる。何と言っても、1年3組のことがあるから。
損な性分って、こういう事を言うんだな。
HRの時間を準備に宛てていると聞いて、恐る恐る1年3組を窺ったら、もぬけの殻だった。
あのまま、女子の言いなりで模擬店にしたのか。だとしても、桐谷を始めとする強気な男子が素直に従っているとも思えない。このあたり、何も聞こえて来なかった。
半分抜け殻状態で文化祭をやり過ごすバスケ部は置いといて、2日間大活躍の吹奏楽部はリハーサルに追い込みを掛けている。練習場所に当てている視聴覚室を通り掛かったら、「文化祭、マジ痩せる」「ていうか、魂を吸い取られるぅ」という女子部員の嘆き(喜び?)が飛び込んできた。
俺と目が合って、ぺこっと会釈。その肩越し向こうに重森がいる。
見つけた……とか思ってんじゃねーよ。
やっぱりと言うか、おもむろにスリ寄ってきて、
「あの女と仲直りしたのかよ」
これは純粋に心配なのか。それとも、自分が蒔いた情報のその先、どんな事件があったかを知りたいだけなのか。(間違いなく後者。)
「別にケンカした訳じゃないから」
「そうか」
そのまま通り過ぎて行った。
意外に、呆気ない。これはこれで気持ちが悪い。
右川が教室から消えてすぐの休憩時間。俺は何度も生徒会室を窺った。
右川が居る筈だ。
だが何故か、いつ行っても内側からカギが掛かっている。
2時間目も、3時間目も。いつ行っても。
何故、生徒会室をあそこまで厳重にする必要があるのか。それが不思議。
そのくせ窓は開けっ放しである。中庭に回ると、開けっ放しの窓から右川の背中が丸見えだ。
頼まれごとが無ければ、特に用も無いので飛び込む必要はない。
そんなこんなでお昼休みになる。右川は、どこかで集まる予定があるからと、消える。生徒会室だったり、よその部室だったりするらしいけど。ぷいと言い捨てていくその様は、大層あっけない。
会話(と言えるか?)があるだけマシなのか。1日中、ラインでしかやり取りしない日もあって。
『朝は先に行って。お昼も適当にやって。放課後も好きにして。以上』
事務的。無機質。消極的なくだり。ここ最近、そんなラインばっかり。
確かに色々あって言い合いもした。
でも、そこまで徹底的に避けなくてもいいじゃないかと思う。いつかは俺を手伝ってくれようとした事もある。あれは譲歩と見えた。訳が分からない。
俺は、思い切って2年のクラスに浅枝を訪ねた。
鍵の件は、浅枝も知らなかった。真木と共に生徒会室に入る前にはラインで連絡をくれと、「連絡しなかったら開けないよ~」と右川から厳しく言われているらしい。
やっぱり徹底的だった。
だけど窓は開いている。
「……」
(考えるのを辞めよう。)浅枝を目の前に、俺はさっそく本題。
浅枝は、1年3組の件も右川から口止めされていると言う。
なるほど。それは想定内だ。
「内緒で教えてくれよ。もし右川が暴走したら、どうする?そしたら誰が止める?困るのは浅枝だろ」
俺は追求&説得の手を緩める気は無い。
すると、浅枝はおもむろに1枚の紙を取り出した。
それを開いて、
「〝あんたの行動はお見通し。悪いけどチャラ枝さんはスパイなんてしないから。遠回りするな。さっさと塾に行け。そ、それじゃあねー……〟」
きょ、きょ、きょ……そこから先が言えないとして震えている浅枝から、俺は紙をもぎ取った。
〝巨乳好きの沢村先生へ♪〟
「あ、あの野郎!」
「あ、待って、待って下さいっ!」
浅枝は、俺の腕を掴んで引き止めた。
「あの、あの!去年もそうだったじゃないですか!永田さん達も文化祭は半分遊んでたっていうか。やっぱり右川会長の言うように勉強も大変だし。それに……」
浅枝はゴクンと何やら覚悟のようなモノを飲みこんで、
「もう私達でも何とか頑張れるんだって、沢村先輩に見てもらいたいです」
1年という時間。
それがまた別の次元から迫ってくる。
俺もそうだった。
浅枝もいつの間にか成長している。こうやって、繋がっていくんだな。
そこは信じてやりたい。ちゃんと見届けてやらないと、と思う。
去年は金の件で色々と揉めた。もし今年もそんな事があったとして、俺の知らない所で浅枝や真木が悩んでいたらと思うと……永田さんには、かなり心配を掛けたな。改めて思い知る。
「分かった」
もう説得は無意味だと思った。
重ねて、
「だけど、何か困る事があったら、本当にちゃんと言って来いよ」
1人で抱えなくていい。
浅枝も去年の事を覚えているだろう。「はい」と神妙に頷いた。
2年の教室を出ようとしたその時、何となく引っかかる気配がする。
俺はひょいと振り返った。
そこには……そんな俺に全く気付かず、天に向かってガッツポーズを決める浅枝がいる。どういう意気込み?
俺が見ている事に気づいて、浅枝は飛び上がり、「あっ!」と声をあげた。
「ん?」
「違うんですっ!」
「え?」
「違うんです!違うんです!違うんです!」
「いや、そんな慌てなくても」
「だから、だから、こう言えばって、言葉を考えたのは右川先輩ですよ?でも、でも、あああああああたしも、そうだなーって!そうだなーって!本当に!本当にっ、聞いててそう思ったんですっ!」
哀れな位に、うろたえていた。
……何も言うまい。言ってもムダだろう。
てゆうか、呆れて笑けてきたよ。もういいって。
「本当に、ちゃんと任せたからな」と最後に言って出た。
塾に行け。
勉強に集中。
恵まれた状況のなかで、肝心な自分がまだ立ち直れずにいる。
御触れが掲示板に出てからというもの、確かに、細かい用事を言い渡される事は少なくなった。
あの時、俺の荷物を奪った右川を見て、意図は理解できた。純粋に勉強に向かわせてくれたんだと思う。しかし、そんな思いやりに反して、俺はどんどん虚ろになって。
国立受験を辞める。
日に日に考え始めた。
こんな俺のままでずっと続いたら右川に申し訳ないとさえ思う。
それだったらいっそのこと辞めてしまえば。
今日みたいな塾の無い日は、いつにもまして自分独りの戦いだ。
今日は何をやろう。とか言ってる場合じゃない。問題がどんどん浮かんできた。有りすぎて。
1年3組も確かに気になる。右川の事だ。何かいい考えがあるんだろう。
右川と色々あった事も……もう悩んでないようだから良しとして。
俺は何をやってるんだろう。
放課後も、相変わらず生徒会室は厳重だった。
文化祭が終わる頃には機嫌も直り、森畑じゃないけど受験が終わったら。
それがどんな結果だろうと、その時は……覚悟してもらうぞ、と言えるだろうか。
堂々と胸を張って、言えるだろうか。