God bless you!~第12話「あたしの力、あなたの涙」
仁義なき戦い~桐谷VS波多野
「沢村クン、今日の予定は何だろう」  
「まだ決まらないクラスに説教に行きます。右川会長、一緒に行きますか」
「沢村クン、それいいね」
俺は我慢できずに吹き出した。
この所、生徒会の色々を話す時、俺達はわざと敬語になる。右川がその口調を山下さんに似せてくるので、笑いを誘った。さすがというか、よく特徴を捉えている。それがもう、可笑しくてしょうがない。
思えば、いつだったか阿木の口真似を見た事もあったな。あれも傑作。
(傑作が気になる人は、第8話へGO!)
お金が絡んだ報告。
文化祭準備の進捗具合。
これから説教に行くクラスの案件。
俺が一通りを一気にまくしたてる間、右川は面倒くさそうに唇を尖らし、途中からは明らかに眠いのを我慢して、瞼をぴくぴく、何度かは寝落ち寸前で白目を剥いた。
以前なら、ちゃんと聞け!と喝を入れる場面である。だが今は、右川も勉強で疲れているだろうし、とりあえず俺は彼氏なんだから思いやりでもって受け止めてやらないと……と自制心が働く。
こういう時、思うのだ。
〝立場は人を変える〟という名言。それも〝可〟です。この場合。
生徒会室を出る前、右川を引き留めて、その唇にキスした。
白状しよう。
事務的な報告を垂れ流す間、俺はずっと期待が隠せないでいる。
はっきり狙っていた。
いつも彼女は無抵抗で、その先、成り行きをこちらに預ける。
呼吸のタイミングが分からないのか、次第に右川が落ち着かなくなる。
そんな不慣れな所も、健気に映った。何ていうか……可愛いと思う。
その手を握ったまま、頃合い、右川を解放。
まだ慣れていない。ていうか、あんまり慣れて欲しくない。
ここではもう何回もキスしている。あまり自然にやりすぎて、例え誰が居ても自然にうっかりやってしまうのではないか。これは慣れてはいけないような。俺はちょっと気を引き締めないといけないかも。
気が付けば、こうやって2人だけで過ごせるのは放課後の生徒会室だけになった。
塾のある日、放課後は別々に散ってしまう。土日も塾を入れているし、平日の放課後、外に出たからといって2人だけになれるとは限らず、制服で出歩けば当然、周りの目線も気になる。
俺と右川の家はかなり離れているから。だから、どちらか寄りに近付くと、どちらかの帰りが遅くなる。それを考えるとこうして生徒会室に居残っているほうがまだいい。
気を利かせてくれる仲間のお陰もあり、生徒会室が自然とそんな場所になった。みんなが気を遣ってくれるのは、いつ別れてもおかしくないという噂のお陰もあると思う。大学が離れてしまえば、なおさらと。
2人で学校中を歩いてクラスを回る。どこでも冷やかされるのは毎度の事。
「凸男と凹美」
「今、何回戦?」
「別れても友達っていいっすよねー」
冷やかされるというか、冷や水を浴びせられる。……いつもの事だ。
歩く時、右川はいつも俺の後ろを行く。そういえば聞こえはいいが、すぐ後ろじゃなく、かなり後ろだ。途中で誰かに捕まりつつ、ふざけつつ、何かを食べつつ、時折「チョコもらった」と俺にも1つくれる。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
右川はスマホを取り出して、何やら読み込んだ。
俺は、決まらないクラスの一覧表を眺めて……2年2組。模擬店は決まってるが、何を出すかを検討中。
1年6組。合唱か手品かで迷っていたので、とりあえず空いている時間枠を与えて様子見。
どちらもよしとする。
あと幾つかまだ決まっていないクラスはあるが、それは先日回ったので答えを待つだけ。
そして、1年3組、原田先生のクラス。
真木のクラスでもある、このクラス。
ここが問題だった。
1年のクラスに入ると普通は、先輩が来た!と少なからず空気が変わるものだが、ここは誰も気にする様子が無い。それも頷ける。そこは、今まさにバトルの真っ最中。大声が廊下にいても聞こえてきた。
「合唱が楽!ちゃっと終わらせようぜ。もう決まり!さー帰ろー!」
「ちょっと待って!じゃ誰がピアノとか弾くわけ?」
「そんなの女に決まってんだろ」
「バーカ!うちのクラスにピアノやってる子なんかいねーってばよ」
俺達が教壇に辿り立つと、やっと誰かが気づいて周囲に声を掛け始めた。
だが、バトルの中心人物はそんなのお構いなし。
「だから!最初からあたし達は模擬店やろうって言ってんのに」
「どうせ重い物運んだり、面倒な事は全部オレらにやらせる気なんだろ」
「それが男の仕事でしょ!」
「それでおまえらは物食って、楽に遊んでんだろ。ふざけんなよ!」
メイン格闘者は、男子の桐谷と女子の波田野だった。
それを取り巻く仲間がいて、入れ代わり立ち代り盛り上げている。
その他は、矛先が向かうのが怖いのか義理もあるのか、男子は男子に、女子は女子に……クラスを2分割の、あからさまな対立だった。
これは真木じゃなくても荒れるな。その真木は、クラスに見当たらない。
やっと俺たちに気づいたのか、バトルは1時中断。
「右川会長。こいつら聞き分けないんです。どうにかして下さい」と、女子の波田野が訴えると、
「頼む相手が違うだろ。会長ったって生徒会は実質、沢村先輩が仕切ってんだから。ですよね?」と、男子の桐谷は、俺側にスリ寄ってきた。
単純に、太鼓持ちである。
桐谷は、バレー部の後輩でもあるから、ここでは分かりやすく俺に取り入って来るんだろう。こっちが、そうだとも違うとも言わずにいると、格闘チェンジとばかりに、見覚えのある男子と女子に取って代わる。
「沢村先輩の前だから言わせてもらう。昨日オレらの部室の前にゴミ置いたろ。おまえらのせいで2年の小田切さんにスゲー怒られたんだからな」
「やたら臭いからゴミ置き場だと思ったんだよ。しょうがないじゃん。臭っせーんだから」
部内抗争。仁義なき戦い。文化祭に便乗して、全く関係無い事で争うんじゃない。最高に見苦しい。
「今はやめろ」
これでバレー部が収まらないなら、3年として威厳もへったくれも無い。
それを笑いながら……そう笑いながら聞いていた右川が、「そんなにやりたくないんなら、や……」と続く所を、俺はぴしゃりと遮った。
決してそれを、決して全部を、言わせてはいけない。
1年に向かって目ヂカラ解放。
「とにかく、早く決めろ。でないと、他のクラスで時間枠が埋まったらステージが使えなくなるから」と、桐谷には一喝した。
「模擬店やるなら、仕込みとか準備が大変だから、早く決めた方がいい……と右川会長も言ってるし」と波田野の様子を窺いつつ、たしなめる。
波多野に目で訴えられ、「言ってまーす♪」と右川なりに俺に同調した。
もぐもぐ。
……まぁ、いい。
「月曜日までに決めるように」
釘を刺して、俺達は1年3組を後にした。
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