冬に咲いた春、僕は無くならない恋に堕ちる
人を好きになったことは何度かあった。
いいな、かわいいなと思ったこともある。

昨日、僕は初めての恋に落ちた。

彼女の名前は、相原彩桜。高校2年生。

僕の名前は、風信櫻(かざのぶ さくら)。彼女の学校の保健室の先生をしている。

もう一度言う、ありえない話だった。
教師と生徒の恋なんて。

...

「「せっんせー」」
勢いよく保健室のドアが開けると同時に、女子生徒が2人入ってきた。

「まず、失礼しますだろ」

テーブルに向けていた椅子を、声がした方へと向ける。

「ちょっと怪我しちゃってさー」

ボブ頭の(さっきと違う)子が、注意などスルーして話を続ける。
まったく、最近の子達はみんなこうなのか?

「どうした?」

飽きれつつも、大人の対応で見逃してやった。

「足、少し捻っちゃったみたい」

「どれ、みせてみて」

ガタッと椅子から立ち上がり怪我をしたというボブの子を椅子に座わらせる。

「どこら辺が痛む?」

「外側かなー」

「ちょっと触るよ?痛かったら言ってね」

右足を取り、外側を少し触るそしてちょっとだけ力を強くした。

「痛くない?」

「少し...」

「うーん...そこまで悪くないみたいだから湿布と氷で処置しとくから、また痛くなったら来てね」

「よかったね〜」

ともう1人の子が嬉しそうに言う。

「あっそういえば...」

「なになに?」

興味津々というように、もう1人の肩下まで伸びたストレートヘアーの子が顔を伺ってくる。

「いや、前も来てたよね、付き添いで」

「今、思い出したの!?」

驚きの声が返ってきた。というか少しショックを受けてるみたいだった。

「まぁ...」

やばかったかなと言った後で後悔をし、弁解を急いだ。

「最近、多いしさ...特に女子?」

怪我の治療をしながら様子を伺う。

「あーまぁね、うちらのクラス今球技やってて苦手な子多いんだよ」

「サッカー?」

「そうそう!...って先生なんで知ってんの?」

「あ、いや...なんでって...窓から見えるし」

慌てて、動揺を見られないように必死で取り繕った。彼女が昨日やっていた競技もサッカーだったから。

「あーそうなんだ、確かに木の間から少し見えるね...まぁ、そうだよね」
あははとどこか残念そうに頷いた。

「君たちって、何組?」

「私は2年A組だよ〜」

「私もー」

「おっ、じゃあ頭いいんだ」

(うちの学校は、成績がいい順にクラス編成されていてA組が1番でき、C組がいまいちと言ったところだ)

治療は終わり、椅子に腰掛けた。
じゃあ彼女も頭いいんだ。

「まぁね〜」

ふふんと鼻を鳴らして自慢げに見せた。
机にあったコーヒーを少しすする。

「あ。」

「ん?」

「先生昨日、うちのクラスの前ウロウロしてなかった?」

「ぶっっ...」

コーヒーが少し飛び散った。

「うわっ汚っ...」

少し引き気味にされると女子高生なだけにおじさんにとっては心が痛む。あれ、20代まだ大丈夫かな。
今どきの女子高生はよく分からん。

で?と逃がしてはくれなさそうなので、今度こそ必死で取り繕った。

「あ、あれは...そうそう、えっとー、ほら、俺今年入ったばかりだから生徒の顔ぐらい覚えとかないとなーって思って」

少し笑って、必死なのがバレないように頑張った。

「へー勉強熱心じゃん」
「ねー意外と」

この時だけは、失礼なことを言われても全然我慢出来た。
そいえば…と時計に目をやった。

「そろそろ、時間やばいんじゃないか?」

「「あっ」」

と驚きの声を上げ、バタバタとじょあね〜と手を振って急いで教室に向かっていった。

途中で、痛っというボブ頭の子の声が聞こえた。

「大丈夫かー」
と声を大きくして、言ったら、足を擦りながら手を上にピースを作ってみせた。
意外と我慢強いなと苦笑して、見えなくなるまで見送った。

「はぁー」
と息をついてコーヒーを飲む。

昨日、どうしても彼女の名前が知りたくて、彼女の教室の周りをウロウロしてたのだ。
「そんなに不審だったかなー」
もう一度深いため息をついた。
それでも、結局名前はわからなくて学校に遅くまで残り、気づかれないように生徒の書類で彼女の名前を確認したのだった。
(さすがに犯罪か...?)

「やっぱり会いたいな...昨日もあれから結局会えなかったし...」

その時...トントンと保健室の開かれたドアが鳴った。

そこにはー...

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