ココロユクエ
必要以上に騒がしく感じる、店内の一角。
禁煙席のはずなのに、エアコンがきいていないのか、換気が悪いのか、空気悪くて、いまいち居心地の悪い、掘ごたつスペース。
既に帰りたくなってる私。
だって前に座る男が…うるさいんだもん。
時々ツバ飛ぶし〜その前にある、サラダおいしそうなのに、一口も食べてないのに〜
…やっぱ断れば良かった、合コン、…あ〜ど〜やって帰ろうかな…
ピルリルリロン。
前の男の携帯が鳴った。なんかマヌケな音。
TVのCMか何か?よく聴いた事のあるメロディだったけど、わかんない。
『もしもしィ?お疲れ〜店着いた?
オッケオッケ〜、入って左に曲がって〜
まっすぐ来ればわかるし〜』
そう言えば、一人仕事で遅れて来るとか言ってたかな。
『ゴメンね〜女子達ィ、やっと来たよ。
あ、こっちだよ、おい、三雲!』
…この人の「女子達ィ」が妙に耳につく、さっきから。
『あぁ、先輩、すいません。
やっとあがりました。皆、すいません、
遅れてしまってこんな途中から…』
ぼんやりサラダを見つめながら、新しく来た男の人の声が、頭の上で流れてた。
…何か、眠い、かも。
自己紹介してるみたいだけど、耳に届いてない。
この席にいる人達の声がみんな、見えない壁の向こうで流れてるみたいに、フワフワ行き交ってる。
『…羽菜、おい羽菜ってば、おい!』
おでこにコツンと何かが当たった。
隣の山元サンが小突いたのかと思って、右を向く。
『何ですか?山元サン…』
また、おでこにコツン。
痛いってば!
『羽菜!何ボケてんだよ、寝てんのか?』
目の前の男……あれ??
『…しょーーちゃん?あれ?どーして…』
『「どーして?」じゃねーよ、羽菜、
さっきから呼んでんのに、ボッサ〜と
口開けて』
『えぇえっ開けてないよっ』
クッと笑うしょーた。
『…相変わらず、だな、お前』
『しょーちゃん…何でこんな所いるの?』