ココロユクエ
 


必要以上に騒がしく感じる、店内の一角。

禁煙席のはずなのに、エアコンがきいていないのか、換気が悪いのか、空気悪くて、いまいち居心地の悪い、掘ごたつスペース。


既に帰りたくなってる私。


だって前に座る男が…うるさいんだもん。

時々ツバ飛ぶし〜その前にある、サラダおいしそうなのに、一口も食べてないのに〜



…やっぱ断れば良かった、合コン、…あ〜ど〜やって帰ろうかな…




ピルリルリロン。

前の男の携帯が鳴った。なんかマヌケな音。

TVのCMか何か?よく聴いた事のあるメロディだったけど、わかんない。


『もしもしィ?お疲れ〜店着いた?
 オッケオッケ〜、入って左に曲がって〜
 まっすぐ来ればわかるし〜』


そう言えば、一人仕事で遅れて来るとか言ってたかな。


『ゴメンね〜女子達ィ、やっと来たよ。
 あ、こっちだよ、おい、三雲!』


…この人の「女子達ィ」が妙に耳につく、さっきから。


『あぁ、先輩、すいません。
 やっとあがりました。皆、すいません、
 遅れてしまってこんな途中から…』



ぼんやりサラダを見つめながら、新しく来た男の人の声が、頭の上で流れてた。



…何か、眠い、かも。



自己紹介してるみたいだけど、耳に届いてない。

この席にいる人達の声がみんな、見えない壁の向こうで流れてるみたいに、フワフワ行き交ってる。






『…羽菜、おい羽菜ってば、おい!』

おでこにコツンと何かが当たった。


隣の山元サンが小突いたのかと思って、右を向く。

『何ですか?山元サン…』

また、おでこにコツン。

痛いってば!

『羽菜!何ボケてんだよ、寝てんのか?』

目の前の男……あれ??

『…しょーーちゃん?あれ?どーして…』

『「どーして?」じゃねーよ、羽菜、
 さっきから呼んでんのに、ボッサ〜と
 口開けて』

『えぇえっ開けてないよっ』

クッと笑うしょーた。

『…相変わらず、だな、お前』

『しょーちゃん…何でこんな所いるの?』




 
< 10 / 23 >

この作品をシェア

pagetop