御曹司様の求愛から逃れられません!
『聞いているんですか、園川さん!』

「は、はい。聞いてますから……。私だって考えてます。絢人さんのそばでちゃんと力になれるのか不安なんですよ……」

電話の向こうでイライラを募らせている樫木さんは、ついにそれがピークに達したらしい。

『ハッ!? 貴女は何を言っているんですか!志岐本部長は完璧なんですから、誰の力も必要ありませんよ!もちろん、貴女の力も!園川さんはなるべく迷惑をかけず、ただそばで笑っていればいいんです!それだけで志岐本部長の機嫌か良くなる。素晴らしいことではないですか!』

本当にそうだろうか……。
私は絢人さんのそばにいるだけでいい、絢人さん自身もそう思っているんだろうけど、私はそれでずっと満足できるのかな。
一緒に編集作業をした夜。ああして彼の力になれることが私の理想とする関係だった。絢人さんに「真夏にしか頼れない」と言われることは、実は昔からとても嬉しかったのだ。

でも、もうそんな機会はないだろう。この間の件は本当にたまたまで、これからは御曹司である絢人さんの立場を脅かすだけの存在となる。
私のおかげで会社が良い方向へ行くことは何もないもの。そこが玲奈さんや彼が今まで付き合ってきたご令嬢たちとは決定的に違うところだ。

『とにかく、志岐本部長はもうすぐ帰国するんです。いい加減腹をくくっておいて下さい。それじゃあ、これ以上は怪しまれますので、失礼します』

理不尽にヒートアップしたまま、電話を切られた。
腹が立つけど、絢人さんからは決して言われない現実的なことを指摘してくれるから、樫木さんの言葉は真摯に受け止めている。

マグカップを持ち上げるとホットミルクはすっかり冷めて、白い膜が浮いていた。
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