御曹司様の求愛から逃れられません!
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駅に着くと本当に志岐本部長がいて、ハイヒールで走ってきた私に「よっ!」と笑顔で手を振った。
会釈をすると、挨拶より先に、背中を手で押されながら近くの洋風居酒屋にぐいぐいと連れ込まれる。

個室があるとは言っても大衆向けのお店だ。仮にも御曹司なのに、話ができればどこでもいいというのだろうか。

「お疲れ真夏!再会に乾杯!」

あれやこれやと注文されていつの間にかビールがふたつ届き、気づけばそれで本部長と乾杯していた。
そのペースにまだ頭がついていかないが、本部長はお構い無しに話を進めていく。

「本当に驚いたよ、真夏が月味フーズに就職してたなんてな」

ハイテンションを少し和らげて、彼は艶っぽくそう言った。

「……それはこっちの台詞です。私だって、本部長がここの御曹司だって知ったのはほんの半年前なんですよ。在学中は何も言ってくれなかったのに」

「え?だって大学で言う必要ないだろ、親の職業なんて」

「お手伝いさんがいる話とか、頻繁に海外旅行してる話は聞いてたので、お金持ちなんだなぁとはうすうす勘づいてましたけど……まさか、自分の就職した会社の御曹司だとは誰も思いませんよ!」

「だよな、運命かもな」

エレガントな身なりでニッと笑う彼に、私はひるんだ。運命って。
照れ隠しにぐびぐびとビールを流し込む。
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