御曹司様の求愛から逃れられません!
しばらくすると、会場は突然、すべてのカーテンが閉め切られ、ライトが消された。かすかな機械音を立てながら、会場内右側の上部から大きなスクリーンが下りてくる。

ゲストたちは「なんだなんだ」と騒がしくなったが、このテーブルと他の先輩方のテーブルは、静かにその様子を見ていた。
薄暗いの中、私は隣にいる絢人さんの手をちょんとつつき、顔を寄せた彼に「ワクワクしますね」と囁くと、彼も小さな声で「そうだな」と答えた。

「それではここで、お待ちかねの余興を披露していただきたいと思います。新婦、早織さんの大学時代のご友人の方々より。早織さんへの思いを込めた、プレゼントムービーです。……それでは、どうぞ」

丁寧で柔らかなアナウンスのあと。薄暗く照らしていた照明も落とされ、会場がシンと静かになった。
親族席にいる小さな子供たちも、大きなスクリーンに釘付けになる。

真っ暗で、かすかに寒さの感じる中。
真っ黒なスクリーンに白いワープロ文字が映し出された。

【早織は……】

映像は、その文字が映し出されるところから始まった。
切なく心を揺らす音楽が細く始まると、それに続いてたくさんの文章が浮かび上がっては消えていくのだ。

一連の文字を編集したのは私だった。先輩たちが事前に、早織さんは自分にとってどんな人か、答えたものだ。

【太陽みたいな人】【しっかり者のお母さん】【本当は寂しがり屋】【密かに好きだった相手】【新発売のお菓子には目がない】

ひとつひとつは短い言葉でも、それが地面に雨が染み込むようにポツポツと写し出されると、見る人の心に降り積もっていく。

【優しくて笑顔が素敵な憧れの人】
あれはこっそり紛れ込ませた私の言葉。

【安心して何でも任せられる人】
あれは多分、絢人さんのだ。
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