御曹司様の求愛から逃れられません!
「俺もさ、半年前に、亮太から真夏がうちに就職したって聞くまで何も知らなかった」

「……亮太さんって、一個上の?」

「そう。俺の代の。友達の結婚式で会ったとき、真夏の就職先も偶然聞いた。お前、なんで亮太には話したのに俺に連絡しないの。亮太とは卒業しても絡んでたのかよ」

「いえ絡んでないです。連絡も取ってないですけど。……なんで知ってるんでしょうね」

「まあいいや。これからはそういうの、逐一俺に連絡して。近況とか、身辺の変化があったら、すぐに」

どうして?と思いきり疑問に思ったが、強引な彼を前になぜか「はい」と返事をしていた。

「あとさ、なんで“本部長”って呼ぶんだよ。昔みたいに“絢人”でいいよ」

心外な。昔だって呼び捨てにはしていない。
きちんと“絢人さん”と呼んでいた。

「駄目ですよ。もう雲の上の人みたいなものなんですから」

私がそう言うと、本部長の眉がピクリと動いた。
彼はビールを置き、テーブルに肘をついてそこに顎を乗せると、長い睫毛を少し伏せて私を捕らえた。

「どうして。何も変わらないだろ。こうしてふたりで飲んでる」

「立場が全然違います!今日だって、本部長に呼ばれたら断れるわけないじゃないですか」

この言い方は私も良くなかった。別に彼と飲みたくないわけじゃない。私だって、話したいことはたくさんあったわけだし。
でも、ただ心の準備ができていなかったから、こうして失礼なことばかり言ってしまうのだ。
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