御曹司様の求愛から逃れられません!
周囲には明るい声が溢れはじめていた。過ぎた日々を思い出し、誰もが「ねえ見て」「懐かしい」と指をさす。高砂の早織さんは、もうぐしゃぐしゃに泣きながら「ヤダあのときのだ」とひとつひとつ、隣に寄り添う旦那さんに説明をしていた。

「……すごいですね、絢人さん」

周囲の声とは別に、彼にしか聞こえない声で私は言った。

「私、感動しちゃって、もう涙が止まりません」

声が詰まりながらもそう伝えると、絢人さんはテーブルクロスの下で、私の手を握ってくれた。

「……泣かせるって言ったからな。真夏のこと」

その手を握り返し、全員がスクリーンに夢中になっている中で、私たちは見つめ合った。

しばらくすると、映像はまた変わる。
『早織ー!結婚おめでとー!』と映像の中で先輩たちが一人ずつメッセージを送るのだ。
短い中で面白おかしなことを言う人もいれば、お祝いとこれまでの感謝の気持ちを丁寧に話す人もいた。泣きながら思い出を語る先輩も。

『よっ、早織!』と始まる絢人さんのメッセージも、早織さんは笑ったり、泣いたりしながら見ていた。

『早織さん。ご結婚おめでとうございます。いつも優しくて明るい先輩が本当に大好きです』
わっ……、これは私だ。亮太さんも「マナっちゃんだ」と反応する。

私も結婚式に来ると知った絢人さんが、私のメッセージを追加で撮ってくれたのだ。
思わずスクリーンから目線をそした。自分の映像を見るのはなんだか変な気持ち。

代わりに控えめに絢人さんに視線を流すと、彼はスクリーンの中の私をじっと見ていた。
その瞳は優しく揺れていて、まるで私を見守っているかのように穏やかだった。
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