御曹司様の求愛から逃れられません!
困りきった顔で絢人さんに助けを求めると、彼は私の手をとって立たせた。
王子様のような所作にまたもやザワザワした後で、彼はニヤリと笑って「悪いな。やっぱり俺たち抜けるわ!」と先輩方のテーブルに言い放ったのだ。

グッと手を引かれ、ふわりと体が浮いた。

「絢人さんっ!?」

引き寄せられて肩を抱かれると、ヒールの私を支えるようにして彼は走り出した。まだわずかに私の足元は浮いたままで、思わず絢人さんにしがみついていた。

背後で「絢人が真夏を拐っていった!」と大騒ぎする先輩方が、数秒後にわらわらと追いかけてくる。
私を拐った絢人さんを先頭に、華やかな集団はお城の出口へと続いていった。

出口の横にはまさにナイスタイミングで黒いスポーツカーが停まっていた。

「お帰りなさいませ、志岐本部長」

助手席側の窓が下がっていき、奥には眼鏡を光らせた樫木さんの偏屈な顔が現れる。
絢人さんはその窓めがけて、引き出物の紙袋をひとつ投げこんだ。樫木さんが驚いてハンドルに伏せると、袋は綺麗に手前の助手席に着地する。

「何するんです志岐本部長!危ないですよ!」

「悪いな樫木。それ持って先に帰れ」

「なっ……!? なんですって!? この僕がせっかくお迎えに来たというのに!尊敬する志岐本部長のお帰りを今か今かとお待ち申し上げてっ……」

樫木さんが助手席まで身を乗り出して抗議すると、絢人さんはその顔めがけて、私が持っていたふたつ目の袋も奪い取って投げ込んだ。
「ひゃー!」と叫び声を上げながら樫木さんがまたもやそれを避け、今度もうまく助手席に着地した。

「それもよろしく」

「志岐本部長〜!あなたという人は〜!」

追いかけてきた先輩たちの集団はそのスポーツカーに引っかかって足止めをくらう。
身軽になった私の腰を持ち上げて、絢人さんは彼らに「じゃーな!」と手を振ってお城から走り去っていった。
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