御曹司様の求愛から逃れられません!
最後に“バカ!”とつけそうになったが、これでも相手は御曹司なのでなんとか言い留まった。
彼は笑みを浮かべながら玄関まで見送りに付いてくるので、カバンでガードしながら歩く。もうセクハラはしないという意思表示なのか、両手はスーツのポケットに仕舞っていた。

「送って行く」

「いいです。近いですから」

「危ないだろ」

「……絢人さんと帰る方が危ないです」

私がそう言うと、絢人さんはグッと唇を曲げて睨んできた。……でも嘘じゃないもん。
彼は玄関に降りて私の腕をひとつ掴んだ。

「ならタクシー使え。今呼ぶから。こんな時間にひとりじゃ帰せない」

引き戻されて肩に手を置かれ、真剣な指示を受ける。この様子だと、歩いて帰ることはどんなに突っぱねようと許してくれないだろう。
私は仕方なく、玄関の段差に腰掛けた。

「……分かりました。じゃあお願いします」

絢人さんは頷いて、携帯電話をタップするだけでそれを済ませたらしく、すぐに後ろのポケットに仕舞い、私の隣に腰を下ろした。

「十分で来る」

「そうですか。ありがとうございます。……で、なんでここに座るんですか」

「真夏。聞いて」

性懲りもなく肩を抱かれたのだが、今度の眼差しからは真剣さが伝わってきたので、そのまま大人しく話を聞くことにした。
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