御曹司様の求愛から逃れられません!
暗い玄関は少し肌寒いが、絢人さんの腕の中は温かい。体温が高いんだろうな。
スマートに見えて熱血なところあるし、いつも笑っていて裏表はないし、元気でタフで……。御曹司で本部長という肩書きがついても、絢人さんのそういうところは昔から変わらない。

「お前にまた会えて良かった。……本当に、夢みたいだと思ってる」

囁かれる言葉に翻弄されていく。さっきあれほど断ったはずなのに、彼は愛の言葉をやめないのだ。

そばにいるとドキドキするし、どんな男性も絢人さんには敵わないと思ってる。至近距離でさんざん迫られた今では、もう他の人は霞んで見えるくらい。

私は絢人さんのこと、一体どう思ってるんだろう……。

「もう二度と真夏を手放す気はないんだ。後悔したくない。……だから、早く俺のものになって」

「…絢人さん…」

流れるように顎を持ち上げられると、今度はしばらく、キスをする距離で見つめあっていた。
もう一度、キスをされそうだ。どうしよう……断らなきゃ……ここで流されたら火傷するって、流されないって決めたじゃない……。

「ダメだ、真夏……帰す前にキスしたい。いいだろ?本当は帰したくないんだ」

ああ……ダメだ……。

「……キス、だけなら」

近付いてくる絢人さんの唇が触れやすいよう、彼の指先が私の顎先の向きをわずかに調整した。持ち上げられると、柔らかく唇が押し当てられる。

触れるだけの心地よいキスがしばらく続き、冷たい玄関に響く控えめな音が、このキスがどれほど優しいものかを表していた。
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