御曹司様の求愛から逃れられません!
エレベーターを降りてエントランスへ向かうと、ガラスのドアの外に綺麗な女性の姿があった。
クリーム色の高そうなワンピースに、真っ赤なハイヒール。高級ブランドのバッグを腕にかけ、携帯電話を耳にあてている。

「いきなりで悪いけど、話があって来たのよ。エントランス開けてくれる?」

女性の強くて滑らかな声がエントランスの中まで響いてきた。一瞬私に言っているのかと思ったが、どうやら電話の相手に言っているらしい。
エントランスの扉が開き、彼女は電話をしたままツカツカとこちらに向かってくる。

「あなたが帰国したのにいつまでも会いに来ないからでしょ、絢人。仕方ないから私から来たのよ」

──え……?

“絢人”……?今、“絢人”って言ったよね?

私は壁に背をつけて彼女から隠れた。誰なの、あの人……絢人さんの知り合い?

「え?今?何よ“誰か”って。別に誰ともすれ違わなかったわよ。……それより、私たちの婚約の件。早くしないと時間がないわ。今日打ち合わせをしましょう」

婚約……?

隠れなくとも彼女は私なんて全く目に入っていないようで、早足でエレベーターへと乗り込んでいった。
私は壁際から戻り、彼女が消えていったエレベーターの入り口をじっと見つめた。
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