御曹司様の求愛から逃れられません!
……どういうこと?
今の人は、絢人さんの知り合いで、絢人さんに会いに来た。話があるって言ってて、それは婚約の打ち合わせで……?

自分の顔に昇っていた熱が、サッと冷えていくのが分かった。

……何よ、やっぱりそういう人いるんじゃない。しかも何?私と入れ違いで家に呼ぶなんて。

「……最っ低」

私はボソリと呟いていた。甘い言葉にほだされてキスに酔いしれていた自分を殴りたい。私の直感どおり、絢人さんに関われば火傷をするのだ。

あんな甘い言葉に騙されて本気になっても、一回寝た後でポイッとされるに決まっているんだから。

二度とここには来ない。
絢人さんとは先輩と後輩、今では上司と部下。それだけの関係でいる。

『愛してる』

──あんな言葉は信じないんだから!

フン、とマンションを見上げて悪態をつくと、私は停まっていたタクシーに乗り込み、その窓からさらに彼の部屋をマンションの外側から睨んでやった。

支払いのいらない謎のタクシーで家路についた後、お風呂場の鏡に向かって、私はもう絢人さんには関わらない、そう誓いを立ててから眠りについた。
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