御曹司様の求愛から逃れられません！
だいたい、彼には婚約者がいるのだ。
一目しか見てなくても覚えているくらい、綺麗な人だった。スタイルも良くてモデルさんみたいだったし、身につけてるものは高級品ばかりだった。きっと相応しいとはああいう女性のことを言うんだろう。彼女が本命で、やっぱり私のことは本気じゃないはず。

……いや、本気とか、本気じゃないとか以前の問題なのかもしれない。お金持ちのエリートの間では、私のような何の変哲もないＯＬをおちょくるのが流行っているのでは？……ああ、もうダメだ、混乱してくる。

「とにかく。私と本部長は何もなかったし、これからも何もないから。日野さんも、もう勘ぐらないこと」

結論だけをきっちりと伝えると、日野さんは残念そうに眉を下げた。しかしすぐ、彼女はわずかに私から私の背後へと目線を外すと、パカッと目を大きく見開いた。

つられて背後を確認すると……

「何もないかどうかは、まだ分からないだろ」

ソファの後ろからなんとあの絢人さんが顔を出していた。

「ひゃあ！」

私は背もたれから思い切り背を離し、ついでにソファの奥へと距離をとった。いきなり現れた彼は今度はこちらへ回り込み、なんと隣に座ってくる。

日野さんはあんぐり口を開けて驚いたまま、しかし映画でも見ているかのようにこちらを凝視していた。

「邪魔しちゃって悪いね」

絢人さんは一度日野さんに声をかけ、彼女がプルプルと首を振ったのを確認すると、隣の私へと目を戻す。
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