御曹司様の求愛から逃れられません!
「それから、園川さん。日野さんも」

突然、樫木さんに喧嘩腰に名前を呼ばれた。正直、私と彼女は絢人さんに巻き込まれただけで何も悪いことはしていない。助けを求めるように絢人さんを見ると、彼は交戦した。

「おい、彼女たちは関係ないはずだ。……分かった。俺が戻ればいいんだろ、戻れば。言うとおりにするさ。お目付け役様」

なんだろう、この妙にピリピリした雰囲気……。

樫木さんはまたメガネを整えた。絢人さんが立ち上がり、「じゃあな」と言って先に歩き出したが、樫木さんはまだ私たちのことを見ていた。

「あの……何か?」

あまりに視線が冷たいので、私が弱々しくそう尋ねると、彼は眉をへし曲げて顔を近づけてきた。

「……園川さん。貴女、勘違いしない方がいい。志岐本部長の言っていることを真に受けると、痛い目を見ますよ」

「なっ……!」

「彼は忙しい身です。実力がある分、周囲からの期待も大きい。彼の障害となるものは全て取り払うのが僕の仕事です。……貴女が本気にして、妙な行動をとられては困ります」

私がプッツリと来る前に、これには目の前の日野さんがの方が先に彼に言い返し始めた。よほど腹が立ったのか、樫木さんのネクタイの先を掴んでいる。

「お言葉ですけど!園川さんだって営業企画部のエースです!志岐本部長のお相手として謙遜ないし、会社のために毎日汗水垂らして働いてるんですよ!それをそんな失礼な言い方するなんて……!」

「ひ、日野さん。落ち着いて」

たしなめつつも、彼女が言い返してくれて嬉しかった。絢人さんの恋人に謙遜ない、ということには賛成しないが、その他については私も同意だ。

私だって毎日この会社で頑張ってきた自信がある。それを蔑ろにされるのは腹が立つものだ。
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