御曹司様の求愛から逃れられません!
オフィスの外の騒ぎ声が大きくなってきた。
高そうな靴の足音と、それが磨かれた廊下をカツンカツンと進んでくるたびにピャーッと沸き起こる黄色い声。

来てる……あの志岐絢人が、もうすぐここに……

「失礼します。部長、ちょっといいですか」

来た!志岐絢人!

色気のある彼の第一声は、すぐにオフィス内に響き渡った。

ついに爆弾投下を受けた営業企画部のオフィスは、入り口に現れた御曹司様に一気に群がった。彼にはすでに色々と取り巻きがついていたけれど、そこに華やかな女性たちの束が合流していく。

呼ばれた部長はそれをかいくぐってなんとか本部長のもとへと到着すると、彼と固く握手を交わした。

「志岐本部長!これはこれは、海外勤務お疲れさまでした!どうか営業企画部をよろしくお願いします!」

五十歳を越えている部長は、握手をしながら彼に深々と頭を下げている。

「こちらこそ、新商品の勢いは海外まで届いていました。よろしくお願いします。期待していますよ。……いやしかし、華やかな部署だなぁ」

彼は自分の周囲の女性たちにぐるりと視線を向け、フッと微笑んだ。もちろん、その仕草に、女性たちはもれなく悩殺される。

笑い方、全然変わってない……。
ニッと片方の口角を上げ、流し目のような視線を向ける。容姿と実力、自信。すべてが揃ってないと許されない笑い方だ。
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