御曹司様の求愛から逃れられません!
樫木さんは私からパッと手を放した。なんの予告もなく解放されたため、酔いの回っている私の体はぐらりと傾いていく。

動き出して受け止めてくれたのは絢人さんだった。
ふわりと彼の腕の中に落ちると、グッと胸に押し付けられた。……分からない……何これ、抱き締められてる?

「や……やだ……」

体を捻って逃げ出そうとするが、絢人さんの体はびくともしなかった。

「……樫木。どういうつもりだ。お前、真夏に何をした」

絢人さん、目が怖い……。どうして?こんなに怒ってるところなんて見たことない。
それを直に向けられている樫木さんは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。仕事中のクールな表情を貼り付けているけれど、彼の泣き顔を見た私なら分かる。

「何もしていません。酔ってらしたので、送らせていただきました」

「だから、お前と飲んでたんだろ?」

「…………そうですね、はい。先程まで僕と飲んでいました」

「それはどういうつもりかって聞いてんだよ!!」

樫木さんは一歩、後退りした。
……さっき謝るって反省したばっかりなのにこれじゃ可哀想だ。絢人さん、どうしてこんなに怒ってるの……?

「絢人さん……樫木さんは、悪くないんです」

私は絢人さんの胸のスーツをギュッと握りながら、許しを乞うように顔を見上げた。
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